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No.1212 生物に学び、生物の力を借りる ~ 新日本文明にふさわしい資源・エネルギー技術


 石油や鉄の一歩通行的な生産・消費・廃棄プロセスに代わる、循環型の資源・エネルギー技術が登場しつつある。

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■1.日本の「希望のかたち」を生む技術革新

 先週4月13日に新著『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』が発売となり、同日、Amazonのカテゴリー「日本論」でトップ、総合でも最高16位につけました。読者の皆様のご声援の賜と感謝しております。
(ただ、予想以上の売り上げのため、本日時点でAmazon、楽天とも品切れ状態になっております。一般書店でお求めいただくか、一両日、お待ちください。Kindle版は発売中です。)

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伊勢雅臣『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』、グッドブックス、R03
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4907461283/japanontheg01-22/

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この国の希望のかたち 新日本文明の可能性 - 伊勢 雅臣
この国の希望のかたち 新日本文明の可能性 - 伊勢 雅臣

 同書では、これからの日本の「希望のかたち」として、行き過ぎたグローバリズムを修正し、豊かな日本の国土の「自然との和」を回復することを主張しています。そのための技術として、木材から植物繊維の主成分であるセルロースを1ミリの1/1000の細さで取り出すセルロースナノファイバー(CNF)をご紹介しました。

 このCNFから作られた材料は、鉄鋼の1/5の軽さで5倍以上の強度を持ちます。自動車の車体材料に使えば、2割ほど軽量化できる可能性があります。また、プラスチックの代替材料としても使えます。我が国の森林の毎年の成長量から、国内で消費されているプラスチックのすべてをCNFに置き換えることもできます。しかも古紙回収・再生の技術、システムを活用して、再生できます。

 プラスチックの原料である原油、鉄鋼の原料である鉄鉱石とも現在ほぼ100%輸入に頼っていますが、これらを国内の森林資源に置き換えることができるのです。海外からの輸入リスクを解消して、我が国経済の自立性を大幅に高めるとともに、手入れ不足で荒廃しつつある国内森林の健全性を復活させることにも繋がります。

 そもそも石油でも鉄鉱石でも必要なだけ掘り出して、大量に生産・消費・廃棄する、という一方通行は、近代物質文明の悪しき慣行でした。CNFは自然の循環性に即した資源利用のかたちであり、まさに自然との和を柱とする新日本文明にふさわしい材料技術なのです。

 自然との和に則した循環性を持つ新技術はこれ以外にもいろいろあります。本号では、この本を補足する形で、興味深い新技術をいくつか、ご紹介します。


■2.植物の光合成を人工的に模倣する

 CNFは樹木から繊維を取り出して様々な材料を作り出す技術ですが、植物が二酸化炭素と水と太陽光で繊維を作り、枝葉を茂らせる「光合成」をまるごと人為的に再現する、というのが、「人工光合成」です。それは次の二つのステップから成り立っています。

1)水(水素と酸素の化合物)+太陽エネルギー → 水素+酸素

2)二酸化炭素(酸素と炭素の化合物)+水素 → 炭化水素(炭素と水素の化合物)+酸素

 石油や石炭は炭化水素の一種ですが、それらを燃焼させる、すなわち酸素と結合させると、2)のプロセスを逆方向に行うことになり、二酸化炭素、CO2が発生します。石油や石炭がCO2の発生源として問題視されているのは、このためです。

 炭素と水素の結合状態をを変えて作るのが、ポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂・合成繊維です。ポリエチレンからはペットボトル、ラップフィルム、食品チューブ・容器、ポリバケツなどが作られます。ポリプロピレンからは繊維形態ではカーペット、靴下、下着類が製造されます。

 現在我が国では一人一日あたり6リットル、牛乳パック6本分の原油を消費しています。人工光合成の技術が完成すれば、この輸入原油の大部分を、水と太陽光、そして二酸化炭素を吸収して、まかなえることができるのです。

 水素を燃やすのは、1)のプロセスを逆に進めることで、エネルギーを取り出し、あとは水が残ります。このプロセスにより、水素で発電したり、自動車を動かすことが有望視されています。現在日本が世界に先駆けて進めている「水素社会」の原理ですが、その水素も、人工光合成の最初のステップから作り出すことができるのです。

 人工光合成の研究の発端となったのは、1967年、東京大学の本多健一氏と藤嶋昭氏が、水中に置いた二酸化チタンと白金に光を当てると、水が水素と酸素に分解される現象を発見した事でした。これは本多-藤嶋効果と命名されています。その後も、日本は優れた触媒技術で、この分野の技術開発をリードしています。

 自然現象をじっくり観察して、粘り強く様々な実験を繰り返すのは、自然との和を大事にしてきた日本人の得意技でしょう。その努力により、資源を一方通行で採掘、消費、廃棄する近代物質文明から脱却して、循環的な資源・エネルギー利用を可能とする新たな文明が生まれようとしているのです。


■3.蜘蛛の糸を人工で作る

 人工光合成のように、生物の構造や機能を観察し、そこから着想を得て新しい技術の開発を行う分野を「生物模倣技術」と言います。生物の真似をする以上、当然、循環性を備えた、自然との和に即した技術となります。

 自然界で最も細くて強度がある材料は、蜘蛛の糸でしょう。1/1000mm単位の細さで蜘蛛の体重を支えることができます。蜘蛛の糸が直径1センチになれば、ジャンボ機を吊るすこともできます。この蜘蛛の糸を人工的に作る技術が、日本で生まれています。

 その作り方は、ある微生物から蜘蛛の糸と同じタンパク質を取り出し、粉末状にしてから、それを溶かして糸とします。その高い強度を活かせば、表面がすり減りにくいタイヤも作れますし、自動車のボディに使えば軽いだけでなく、素材の伸縮性で衝突時の衝撃を吸収してくれます。

 人工の蜘蛛の糸を世界で始めて作りだしたのは、山形県鶴岡市に本社を構えるスパイバー、慶応義塾大学出身の若者2人が2007年に立ち上げたベンチャー企業です。

 鶴岡市には養蚕業の歴史と文化があり、養蚕から製糸、染色、縫製、販売まで、絹製品の全工程を一貫して行なっているのは全国でも同市しかありません。絹糸もカイコが作り出す繊維です。その技術と伝統を、同じく生物由来の蜘蛛の糸で製品までのプロセスに活用することができます。

 人工の蜘蛛の糸を使ったTシャツやセーターは少量ながら、すでに発売されています。スポーツウェアなどの製造販売を行っている富山県の株式会社ゴールドウィンの製品です。

 石油から作られる合成繊維の最初は、アメリカのデュポン社が1935年に開発したナイロンでした。一説には、このNylonは、"Now You Look Out, Nippon(さあ見てろよ、日本!)」という意味でした。日本の絹糸が世界の繊維・服飾業界を席巻していた時代でした。

 しかし今やその合成繊維が発達しすぎて、膨大な石油を消費する問題を引き起こしています。今度は日本が人工クモ糸による自然の繊維によって、再度、素材革命を起こし、世界の石油問題を解決して「さあ見てろよ!」という番でしょう。

 セルロースナノファイバー、人工合成、人工クモ糸のいずれも、石油や鉄鉱石を不要とする素材革命を引き起こすでしょう。このうちのどれかが主流になるのか、あるいはそれぞれ異なった得意分野で住み分けるのか、まだ分かりません。

 いずれにしろ、近代物質文明の、石油や鉄鉱石を掘り出して生産・消費・廃棄と一方通行で進むプロセスは、自然との和を基調とする循環型の生産・消費・再生サイクルにとって代わられる運命にあります。


■4.微細藻類を使ったバイオ燃料

 光合成を行う微細藻類を利用して、炭水化物と水から、炭化水素を作り出す技術も開発が進んでいます。微細藻類は作り出した炭化水素を細胞内にため込みます。その藻を水中から回収し、乾燥させ、炭化水素を油として絞り出し、精製します。

 この油はバイオ燃料として、自動車や航空機の燃料に使えます。従来のバイオ燃料はトウモロコシやサトウキビなど人間の食料を使っているので、食料の価格上昇を招き、途上国の飢餓問題を悪化させます。この微細藻類を使うバイオ燃料なら、その心配はありません。

 また土地面積当たりの生産性も高く、従来の作物由来のバイオ燃料で最も高いヤシの実の10倍程度です。搾りかすも、食品や家畜などの餌に使うことができます。

 バイオ燃料は特に航空機用途に期待されています。自動車は蓄電池を積んだモーター駆動の技術が進んでいますが、航空機はそれでは飛べず、これからも液体燃料に頼らざるを得ません。その時に微細藻類によるバイオ燃料が活躍すると考えられています。また燃料だけではなく、樹脂として使うバイオプラスチックの研究も進んでいます。

 微細藻類はプールさえあればどこでも培養できるので、火力発電所で排出される二酸化炭素や、食品工場の廃液に含まれる糖を餌に利用することができます。こうして資源の循環性を改善するかたちで、エネルギーや樹脂が得られるのです。


■5.蠅を使って生ゴミ・排泄物を肥料・飼料に

 人工蜘蛛糸や微細藻類と同様の「生物の力を借りる」技術開発として、嫌われ者の蠅(はえ)を活用した堆肥と飼料の生産も開発されています。

 我々が日常生活で見かけるイエバエは、残飯類や家畜の排泄物に卵を産みつけます。その卵は8時間くらいで孵化して幼虫になり、ゴミの中を自在に動きながら、消化酵素を分泌し、有機物を分解し続けます。そうして分解された有機物を食べて成長するのです。

 その分解能力は非常に高く、通常行われている堆肥作り、すなわち微生物による発酵処理では最低2~3か月かかるところを、イエバエの幼虫を使うと一週間で販売可能なレベルの肥料ができます。

 蠅がたかるような場所は病原菌もたくさんいますが、蠅自身は病気にはならないので、抗菌性を持っていると考えられています。蠅によって作られた肥料では、抗菌性が継承されているようで、それを使った作物では、ほとんどの菌に対して抑制効果が表れています。

 日本は年間8000万トンもの畜産の排泄物が出ていますが、そのままにしておくと土壌や地下水にも汚染が広まります。しかし、ハエの分解力を借りて、排泄物を非常に効率良く、品質の優れた肥料に変換できるわけです。

 またハエの幼虫がさなぎになる時には、外に出てきます。ゴミの中では羽化できないからです。この幼虫を捕らえて茹でると、鶏や豚や魚などの飼料になります。こうして蠅の幼虫から作られた飼料は、家畜の免疫を活性化する効果があるということが分かっています。

 中世のヨーロッパの都市では人間の排泄物を通りにぶちまけており、その不衛生な状態から、よく感染症が発生していました。同時期の江戸では排泄物を回収し、肥溜めで肥料にする、というリサイクルシステムが完成していたので、西洋よりははるかに衛生的な都市生活が送れたのです。

 蠅を使って生ゴミや排泄物を肥料と飼料にする、というプロセスは、かつての日本文明の循環性を、さらに高度化したものといえます。


■6.苔による工場廃液からの金や鉛などの重金属回収

 苔を使って、工場の廃液から金や鉛を回収する技術も登場しつつあります。家電やパソコンなどの電子部品の配線、電極には金メッキが多く使用されていますが、現在の回収方法では微量の取り残しが出ます。これ等の重金属を含んだ工場廃液をそのまま排出すると、環境破壊を招きます。しかし重金属を完璧に採集できれば、経済価値のある資源となります。

 ありふれた苔の一種、ヒョウタンゴケが、金や鉛、プラチナなどを吸収する能力を持つことが、日本で発見されています。ある実験では、りサイクル原料を再資源化処理した後の廃液でヒョウタンゴケを育成したところ、2週間後にはコケ重量の10%に当たる金14.8グラムを回収できました。鉛は最大で重量の70%も、またプラチナも数%回収できることが分かりました。

 苔がどのように重金属を吸着するのか、詳しいプロセスはまだ分かっていないようです。しかしそれによって、資源回収と環境浄化が同時にできるわけで、まさに一石二鳥のプロセスです。

 近代物質文明では、金や鉛など金属材料を集めて、パソコンや家電などの製品を作ってきました。しかし製品を廃棄する段階で各資源を分別して回収するプロセスは完全には開発できておらず、まさに一方通行の資源利用になっていました。苔を使った重金属の回収方法が完成すれば、循環型の資源利用に一歩、近づきます。


■7.「新日本文明」にふさわしい資源・エネルギー技術

『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』でも述べましたが、日本はグローバル化と都市化という、近代物質文明の両輪において、「悪しき優等生」になってしまっています。

 現代物質文明の基礎資源は鉄と石油です。鉄の原料である鉄鉱石は100%を輸入に依存しており、オーストラリアやブラジルなど南半球からはるばる輸送されてきます。原油も99.7%輸入に頼っており、中東からの輸入が90%近くを占めます。

 日本人一人あたりにすると、毎日1リットル入り牛乳パック6本分の原油と、重量にして3キロ、ノートパソコン3台分ほどの鉄鉱石を地球の反対側から輸入しています。まさに究極のグローバル化です。

 鉄鉱石や原油など重量物を大量に輸入するために、製鉄所や石油プラントは大都市の近くの臨海地帯に作られました。しかもその効率を上げるために巨大なプラントが建設されました。これが都市化を促進する要因の一つになっています。

 しかし本稿でご紹介した、生物に学び、生物の力を借りる新しい技術は、グローバル化と都市化を不要とします。まず完全に国内だけで資源やエネルギーを得ることができます。大規模なプラントなど不要で、全国各地で小規模分散型の資源やエネルギーの生産が可能となります。

 今回の新著で「新日本文明」として描いたのが、この豊かな日本列島の各地に人口が分散して住み、自然と親しむ暮らしのあり方でした。そしてそこにこそ本当の人間らしい「希望のかたち」があることを述べました。それにふさわしい資源とエネルギーの獲得技術が、今、続々と現れようとしているのです。
(文責 伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(1211) 『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』
「自分の将来が明るい」という青年が、日本では先進国の間ではダントツに少ないのは、なぜか?
http://blog.jog-net.jp/202104/article_2.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
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・伊勢雅臣『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』、グッドブックス、R03
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