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No.1255 歴史をYahoo!ニュースの見出しで伝える活き活き学習法


 Yahoo!ニュースの見出しを考えるという課題で、生徒たちが活き活きと先人たちの歴史物語を学ぶ。

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■1.「これほど歴史を深く、活き活きと学べるのか」

「中学生でも、これほど歴史を深く、しかも活き活きと楽しげに学べるのか」と、唸ってしまいました。高校新教科「歴史総合」でより良い授業を研究しようという教員有志による「私たちの歴史総合」研究会を参観してのことです。

 東京都のある区立中学で歴史を教えているT.I先生は、中学の歴史学習の課程を終えた3年生に対して、「高等学校へのプレ授業」と位置づけて、明成社の「歴史総合」教科書を使って日露戦争を取り上げました。

 そこでの柱が、学んだ内容を、Yahoo!ニュースの見出しの形で、最大15.5文字(半角は0.5文字)にして当時の国民に伝える、という課題です。まず日露戦争全般を、以下の3つの局面に分けます。

【局面1 開戦までの経緯】
【局面2 戦争中】
【局面3 戦争後のアジア諸国への影響】

 それぞれの局面での重大ニュースを報道して貰う、というのです。

 手順としては、以下のようにグループ学習を主軸にしています。

1)クラスを少人数のグループに分け、局面を分担
2)生徒一人ひとりが担当する局面での見出しを考える
3)考えた見出しをグループのなかで話し合って、一つの見出しにまとる。
4)各グループがクラスで発表する。


■2.「英国政策転換し日英同盟、露の脅威」

 さっそく、生徒たちがどんな見出しをつくったのか、見てみましょう。★をつけた一文が作成された見出しで、その後の「」内は生徒のコメントです。

【局面1 開戦までの経緯】

★英国政策転換し日英同盟、露の脅威
「イギリスがこれまでの政策をかえるほどロシアが今脅威になっていることを伝えたいと思ったから」

 イギリスは極東を南下してくるロシアを牽制しようと、長年の「栄光ある孤立政策」を転換し、日英同盟を結びました。英国の同盟相手が、非白人国家である日本だったことは、世界を驚かせました。この見出しはロシアの脅威と、それに備えるイギリスの動きが見事に表現されています。

★ロシア満州を占領、日英同盟で対抗
「のちに、日英同盟は第一次世界大戦にも影響を及ぼす大切なものとなるから。日露戦争のきっかけとなったロシアの占領は国民全員が知るべきだから」

 こちらはロシアの脅威を「満洲の占領」と具体的に訴え、それに日英で対抗しようという戦略的な動きが、よく表現されています。

★露軍が満州駐屯 日本侵略の危機
「これから日本に関わりができるかもしれないニュースなので、世界情勢がどうなっているか、わかりやすく国民に伝える必要があるから」

 ロシアの満洲への駐屯が、「日本侵略の危機」であることをストレートに訴えています。

 弊誌1238号「こんなに違う高校『歴史総合』教科書」でも述べたように、実教の教科書では、日露戦争を「韓国・満洲利権をめぐる帝国主義国家どうしの争い」と述べています。「ロシアの脅威」も、「政策転換し日英同盟」という英国の動きもまるで視野に入っていない記述に比べれば、生徒たちの見出しは、はるかに当時の国際政治の動きを正確に捉えています。


■3.「日本海海戦、世界最強の艦隊沈む」

【局面2 戦争中】でつくられた見出しを見てみましょう。

★日本海海戦、世界最強の艦隊沈む
「戦争中でみんなが不安な中、士気を高められるような内容を伝えた方がいいと思ったから」

「戦争中でみんなが不安な中」というコメントから、生徒が当時の人々の心持ちをよく思いやっていたことが感じられます。そういう不安を吹き飛ばすニュースを送ろうと思ったのです。

★バルチック艦隊、東郷ターンに屈す
「当時無敵ともいわれたバルチック艦隊を、アジアの日本がたおして大勝利をおさめたことは、アジアや日本の希望の光であり、日本国民も知りたいだろうから」

「アジアや日本の希望の光」という表現に、こちらも当時の人々の思いを追体験している様が窺えます。


■4.「日本勝利 亜諸国独立へ大きな一歩」

【局面3 戦争後のアジア諸国への影響】はどうでしょうか?

★賠賞金ではなく地位と勇気を得る
「賠償金を得られずに不満を抱いた人もいたが、戦争が意味のなかったものではないことを伝えたかったから。勇気をもらった国々がこれから独立を果たすから。」

 文字数の制限で、「地位と勇気」が何を指すのか、少し理解が難しいですが、「戦争が意味のなかったものではないことを伝えたかったから」という点が泣かせます。アジア諸国に独立への勇気を与えた、というニュースを、戦死者の遺族が聞いたら、どれほど慰めになったでしょうか。

★日本勝利 亜諸国独立へ大きな一歩
「日本の勝利は、アジアだけではないが、独立への希望を与えた。地位の向上と、日本の成果を示したいと思ったから」

「独立への希望を与えた」ことを、「亜諸国独立へ大きな一歩」と表現しています。確かにその通りです。明成社教科書では、「世界に影響を与えた日露戦争の勝利」と題した一ページのコラムで、インドの『ヒタバテイ新聞』が「日本の勝利がインド人を覚醒させ、イギリスと対等という前向きの思想に目覚めさせた」と報じたことを記述しています。

 この「覚醒」がインド人の独立への動きを元気づけたわけで、まさに「大きな一歩」でした。


■5.「歴史物語」型教育を実践する卓抜な方法

 3つの局面とも、生徒たちが、当時の先人たちの思いに寄り添って、どうニュースを伝えようか、と苦心している様が窺えます。それは日露戦争という巨大なドラマに自らも参加して、先人たちが抱いていた不安や期待、喜び、無念さを思いやり、その思いに生徒たち自身が語りかけたものです。生徒たちは、まさに先人との対話を行うことによって、歴史を追体験しているのです。

 この姿勢は「韓国・満洲利権をめぐる帝国主義国家どうしの争い」などという高みの見物を決め込んでいる歴史研究者の姿勢とは全く違います。

 弊誌1238号では「歴史物語」型の教育を以下のように説明しました。

__________
「歴史物語」とは、フィクションではなく、あくまでも史実に基づいたノン・フィクションの物語です。その史実から先人たちの声に耳を傾けることができるのが、「歴史物語」なのです。

「物語」とは英語で「story」ですが、歴史は「history」で、語源は一緒です。我が国では『平家物語』や『太平記』、西洋では古代ギリシアの叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』などの「歴史物語」が語られ、それを聞きながら、人々は先人の姿を思い浮かべ、その声を聴き、胸躍らせていたのです。このような歴史物語が、歴史の原型でした。[JOG(1238)]
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 Yahoo!ニュースの見出しの形で、当時の人々にメッセージを伝えよう、という課題を通じて、生徒たちは歴史物語に参加して、当時の先人たちの不安や喜び、悲しみに共感しつつ、メッセージを送ったのです。まことに卓抜な教育方法です。


■6.「主体的・対話的で深い学び」が見事に達成されている

 この方法で、文科省が目標としている「主体的・対話的で深い学び」が見事に達成されている点も見逃せません。

 まず、生徒が各自で見出しを考える、というプロセスで、何がニュースの本質かを自分考えなければなりません。たとえば、山川出版社の教科書の以下の記述と比べてみましょう。

__________
賠償金が得られなかったことなどから、増税や人的犠牲に釣りあう成果ではないと受け止めた人々も多く、講和条約調印の日には東京で講和反対の暴動がおきた(日比谷焼打ち事件)。
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 それに対して、「賠償金を得られずに不満を抱いた人もいたが、戦争が意味のなかったものではないことを伝えたかった」と考えた生徒は、日本の国際的な地位向上や、「勇気をもらった国々がこれから独立を果たすから」ということの方が大切だと考えたのです。

 日比谷焼打ち事件については、山川以外の教科書もほとんど同様の記述をしていますが、この生徒はそれらの「定説」に流されずに、しっかり主体的に考えています。

 また「対話的」という点でも、各人が見出しを考えた後、グループで一つの見出しに仕上げる、というプロセスで生徒どうしの対話が促進されます。15.5文字の中で具体的にどう表現するかという相談をすることによって、抽象的なとりとめのない話をするよりも、はるかに具体的な対話ができます。

「深い学び」をしたことも、生徒たちが示した見出しが具体的に示しています。たとえば「露軍が満州駐屯 日本侵略の危機」という見出しをつくった生徒は、「日本さえ侵略しなければ、世界の平和は守れる」というような「お花畑思考」が現実離れしたものだと判断できるでしょう。

 さらに、「英国政策転換し日英同盟、露の脅威」を考えた生徒は、共通の脅威に対して、同盟を結んだり、集団的安全保障体制を組むことの価値がよく納得できたはずです。

 こういう理解を得た生徒たちは、現在の中国の覇権主義に対して、日米同盟の価値もよく分かるでしょう。これこそが歴史を追体験することで、今日の我々が歩むべき方向を考える、という「深い学び」なのです。

 逆に言えば、「日本さえ侵略しなければ、世界の平和は守れる」というような「お花畑思考」にいまだに囚われている人々は、「思想誘導」型の教科書で、特定の思想を吹き込まれた「受け身的・一方的で浅い学び」しか、していない人々なのでしょう。

 また、賠償金などよりも、「希望の光」や「勇気」を与えたことの方が大事だ、と考えている生徒は、ただ日比谷焼打ち事件を単なる経済的不満による暴動と記述している教科書執筆者よりも、よほど深い学びをしているように見受けられます。


■7.「学習指導要領のねらいを実現できた」

 T.I先生は、まとめで「日露戦争における勝利がアジア諸民族の独立や近代化の運動に刺激を与えたことに気付くようにする」という学習指導要領の一節を引用した後で、こう結論づけています。

__________
日露戦争の局面を1~3に分けたことで、さまざまな見出しができた。本授業では、獲得した知識を活用して、歴史的な出来事の意義を多面的・多角的に考察し、表現することを通して、主体的・対話的で深い学びの実現を図った。・・・

教科書を基本教材として学習し、日露戦争の世界史的な意義について、学習指導要領のねらいを達成できたのは大きな成果である。
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 こういう授業によって「主体的・対話的で深い学び」をした生徒たちは、明日の日本を支える元気ある日本国民に育ってくれるでしょう。


■8.高校地歴科教員の方、「私たちの歴史総合」研究会にご参加ください。

 Yahoo!ニュースの見出しを考える、という卓抜な教育手法を考え、実践されたT.I先生に謝意と敬意を表するとともに、「主体的・対話的で深い学び」を実際の教育現場で実践するためには、さらにいろいろな創意工夫がありえると考えます。

 そのような創意工夫をすでにいろいろな形で実践されている先生方もあちこちにいるでしょうし、また様々な良い事例を学びたい、という方も数多くいらっしゃると思います。

 そういう先生方がネットワークをつくり、互いに智慧を交換しあい、悩み事を語り合い、励まし合う。その活動がT.I先生が報告をした「私たちの歴史総合」研究会です。

 全国の中学高校の歴史教育に携わる先生方に、この研究会へのご参加をお勧めします。伊勢雅臣も、ご招待いただいたので、応援団として毎回出席させていただきます。

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名称: 「私たちの歴史総合研究会」
開催頻度:月1回、日曜日19~20時
次回:  3月13日(日)19~20時
形式:  リモート会議。年1回程度オフ会開催予定。
申し込み:下記の『判定! 高校「歴史総合」教科書』の高校地歴科教員向け贈呈申し込みページから、研究会案内も請求できます。
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 高校地歴科教員向けに拙著贈呈は以下のページからお申し込みください。

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<<<伊勢雅臣の新著『判定! 高校「歴史総合」教科書』
                高校地歴科教員向け贈呈>>>
https://1lejend.com/stepmail/kd.php?no=619618

★★送付先住所は当該校宛てのみとさせていただきます。申込者個人の住所にはお送りできません★★
★★贈呈は、各校1冊と限らせていただきます★★

■お知り合いの高校地歴科教員の方にはぜひお勧めください
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(文責 伊勢雅臣)

■おたより

■歴史を今に生かせる学びとしている先生の存在に希望(裕子さん)

この度も素晴らしい実践を教えていただきまして誠にありがとうございました。

「ヤフーニュースの見出しにするなら」、という、とても興味と好奇心をかきたて、考えたい!と思わせる方法を授業に取り入れられたことにも驚きましたが、区立中学での実践ということでより驚きが増しました。

地域性もあるのか、私の住む地域では塾の講師も、中学校の教員も我が国は加害国!、特定の政党を支持するという視点で社会や歴史の講義をなさるので何度か抗議した経緯があります。

公立には誤った価値観、非常に偏りの多い先生方が多いものなのかな・・、と思っていたので区立中学校でこのような素晴らしい授業を実施されたことに感嘆の思いです。

先日、オーストラリアで旧日本軍による大規模な空襲の慰霊式典があったことをテレビ番組のニュースで知りました。軍関係者や地元住民ら240人が亡くなったとのことでその喪失、悲しみはいかばかりかと思います。そして悼む人々の姿を見て、亡くなられた方々に思いを馳せることは大事なことと思いました。

が、我が国でもそのような慰霊が各地で行われているのに、それがニュースにならないことに憤りを感じました。

その後、岡山シティミュージアム岡山空襲展示室を訪れたのですが、その爆撃のすさまじさと非人道さに衝撃を受けました。岡山では1737人の「民間人」が無差別爆撃によって命を落としていました。全ての家々が焼け落ち、人々の町が消失しまっ平になっていました。

オーストラリアの被害と日本の被害を思う時、その規模の大きさに愕然とさせられました。そして、我が国は毎日毎日が慰霊祭だと思いました。

歴史を知らねば、ニュースを見た時に我が国がどのような経緯で戦争に至ったのかがわからず、ただただ加害の意識を募らせてしまうことに危機感を覚えました。

T.I先生のように歴史をただの出来事ではなくその出来事の背景やその後の動き、意義や意味として今に生かせる学びとしてつなげていらっしゃる先生がいらっしゃること、そして先生方の研究会の存在は大きな希望でした。

この度も感動の学びをありがとうございました! m(__)m


■伊勢雅臣より

 こういう学びこそ、「深い学び」ですね。


■(Yahoo!ニュースの見出しを考える、という卓抜な教育手法を考え、実践されたT.I先生から、中3生徒の感想を送っていただきました)

・僕は今回の歴史総合を通して昔の日本男児の魂や愛国心を強く感じました。昔の人の気持ちを忘れずに引き継いでいきたいです。日露戦争の映画を見たいと思いました。(男子)

・このようにみんなと意見を交換して考えていくのは自分の歴史に対する一方的な見方を止めて、たくさんの考え方が生まれるのでとてもおもしろかった。(女子)

・日露戦争で日本が勝利するまでには、数々の苦難があったということが改めて分かった。ロシアがウクライナに侵攻しようとしている現状と、この日露戦争の頃の時代はロシアの欲深さがあらわれていて似ていると思った。高校では、近代史についてより深く知りたいと思っている。(男子)

■伊勢雅臣より

 この主体的・対話的な方法で、自分の頭で考え、自分の心で感じ、結果的に「深い学び」をしていることがよく分かります。これこそが真の歴史教育です。


判定! 高校「歴史総合」教科書 こんなに違う歴史記述 - 伊勢 雅臣
判定! 高校「歴史総合」教科書 こんなに違う歴史記述 - 伊勢 雅臣


■リンク■

・JOG(1238) 1238 こんなに違う高校「歴史総合」教科書
 歴史教科書には「思想誘導」型、「社会科学」型、「歴史物語」型の3つがある。
http://blog.jog-net.jp/202110/article_3.html


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