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No.1206 ファクトフルネス ~ 偏向メディアに踊らされないために


 偏向情報は、人間の原始本能を衝いて、誤った方向に走らせる。

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■1.「コロナ患者数、減少続く」か、「減少傾向鈍化」か

「コロナ患者数の減少傾向が鈍化しています」というテレビのアナウンスを聞いて、思わず吹き出してしまいました。コロナ患者が増えている時は棒グラフで急増する様子を、これでもかというぐらいに報道していたのに、新規患者数が減少傾向に転じてもそれを大きく報道することなく、今度は「減少傾向が鈍化しています」という。

 なぜ、マスメディアでは常に暗いニュースを悲観的に報道するばかりで、明るい、楽観的な報道をほとんどしないのだろう、と常々不思議に思っていたところ、100万部を超えるベストセラー『ファクトフルネス』を読んで、その理由がわかりました。そこではこう説明されています。

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 わたしたちの頭の中と、外の世界のあいだには、「関心フィルター」という、いわば防御壁のようなものがある。この関心フィルターは、わたしたちを世界の雑音から守ってくれる。もしこれがなければ、四六時中たくさんの情報が頭の中に入ってきて、何もできなくなってしまうだろう。[1487]
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 関心フィルターにはいくつかの穴が開いており、その穴を通った情報だけが我々の脳に届きます。その穴の一つが「ネガティブ本能」です。我々の脳は、生存のために危険を察知すべく、ネガティブ(否定的)な情報を、この穴から優先的に意識に取り込むようなのです。楽観的な情報は、知らなくとも良いと、関心フィルターで遮られてしまう事が多いのです。

 テレビや新聞報道に従事する人々は長い間の職業的経験からこの脳の性質を知っており、読者・視聴者の「ネガティブ本能」を狙ってニュースを書くようです。「コロナ患者数、減少続く」などと新米記者が書いたら、デスクが「それじゃあ読者の注意は引かないよ」と、「減少傾向が鈍化」に修正させるのかもしれません。


■2.チンパンジーより無知な我々

 この「ネガティブ本能」は我々の問題認識も歪めます。例えば、この本では次のような質問を読者にしています。

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質問 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
 A 約2倍になった
 B あまり変わっていない
 C 半分になった
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 正解は「C 半分になった」です。この質問に正しく答えられた人は日本では10%、アメリカでは5%に過ぎません。

 著者のロスリング氏は、こういう冗談を言います。3本のバナナにそれぞれA、B、Cと書いて、この質問を読み上げてから、チンパンジーに、どれか一本を拾わせる。確率はそれぞれ1/3なので、チンパンジーの正解率は33%のはず。とすると、日本人もアメリカ人もチンパンジーよりもはるかに知識がない、ということになります。

 知識がないということよりも「皆が同じ勘違いをしているといった方が近いかもしれない」とロスリング氏は言います。

 国内では「貧困老人」「子どもの貧困」「低賃金で、いつクビになるかもしれない派遣社員」がよくニュース番組にとりあげられ、世界でもアフリカの飢餓問題などが報道されていますので、こういうニュースばかり聞かされていれば、極度の貧困が半減しているなどとは、誰も思いもしないでしょう。

「ネガティブ本能」の穴を通ってくる悲観的な情報によって、我々は、世界がどんどん悪くなっていると思い込んでしまうのです。


■3.自然災害で毎年亡くなる人の数

 災害報道は、映像によって「ネガティブ本能」を強く刺激します。洪水・地震・暴風雨・干ばつ・山火事・異常高温・異常低温など、テレビで悲惨な光景が映し出され、人々の恐怖を煽ります。

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質問 自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年でどう変化したでしょう?
 A 2倍以上になった
 B あまり変わっていない
 C 半分以下になった
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 正解はCですが、そう答えた人は日本では15%,フランスにいたってはわずか3%。アフリカに距離的にも歴史的にも近いフランス人は、そこでの悲惨な自然災害の光景をテレビニュースなどでよく見ているからでしょう。

 しかしデータで見れば、自然災害による死亡者数は半分どころか、25%になっています。人口は同じ期間に50億人増えているので、一人あたりに換算すると、災害による死亡率は100年前の6%になっています。


■4.「25年ぶりの非常に強い台風」

 日本でも集中豪雨などで災害が激甚化してるように思いますが、気象庁が発表している「最強の台風ランキング」ではトップ10までは、すべて1999年以前のものです。[気象庁]

 台風の強さは上陸時の最低気圧・ヘクトパスカル(hPa)で計ることができます。過去最強が、昭和36(1961)年台風第18号(通称「第2室戸台風」)で上陸時の最低気圧925hPa、第2位が昭和34(1959)年第15号の929hPa、第3位に平成5(1993)年台風13号とようやく平成が入りますが、28年前の台風がトップテンでは最近のものなのです。

 死者不明者数で見ると現在とは桁違いです。1位「伊勢湾台風」(1959)5,098人、2位「枕崎台風」(1945)3,756人、3位「室戸台風」(1934)3,036人と、死者不明者数1000人超という大きな被害をもたらした台風が、ずらりと並んでいます。

 平成30(2018)年の台風21号は、25年ぶりに「非常に強い」勢力で日本に上陸し、甚大な被害を出したとされていますが、上陸時の中心気圧は950hPaですから、歴代トップ10には、はるかに及びません。死者不明者も14名と過去に比べれば二桁少ない水準です。「25年ぶり」とは、それ以前には、もっと大きな被害をもたらした台風がたくさんあったということなのです。

 巨大な波に襲われる海岸べりの光景、大きな木が車の上に倒れた様などをテレビの画面で見れば、我々は恐怖にとらわれ、そこに「25年ぶり」などとアナウンサーが語れば、誰でも台風は強大化していると思ってしまうでしょう。しかし数字で見ると、台風は巨大化などしておらず、また防災も着実に進んでいて、被害者数は大きく減っている、というのが事実なのです。

640px-Heavy_rain_disaster_in_Hiroshima-20140823_175937.jpg
melvil - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=63213380による



■5.「良くなっている」という情報がもたらす「積小為大」

 情報フィルターによって歪められた世界認識を改めるために、ロスリング氏は、「悪い」と「良くなっている」という二つの見方を併存させるよう勧めています。強大な台風で14名も死者不明者が出るのは、確かに「悪い」ことです。しかし過去に比べれば二桁も減って「良くなっている」ことも、事実として知っておかなければなりません。

 悪いことだけを知っていて、良くなっていることを知らなければ、「政府は何をやっているのだ」と怒りの声を上げたり、「もう何をやってもダメだ」と絶望してしまうでしょう。それでは事態を良くしてきた努力を続け、さらに改善を続けていくことはできなくなってしまうのです。ロスリング氏は言います。

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 本当の意味で明るい話とは、数えきれないほどの「小さな進歩」が世界中で起きているということだ。そんな「小さな進歩」の繰り返しが世界を変え、数々の奇跡を起こしてきた。とはいえ、一つひとつの変化はゆっくりで細切れだから、なかなかニュースには取り上げられない。[748]
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「堤防を一部嵩上げしました」「強風で看板が飛ばされないように据え付け部を補強しました」「住民の避難訓練をしました」というような「小さな進歩」は、地方新聞でもほとんどニュースにならないか、なっても注目されません。しかしそのような「小さな進歩」が無数に積み上げられて、犠牲者数が二桁も減るという奇跡が実現したのです。

 14人もの犠牲者が出るということは、まだまだ「悪い」状態ですが、もっと良くしていくためには、さらに「小さな進歩」を積み重ねていく必要があります。そのためにも「良くなっている」という事実を知り、どんな「小さな進歩」がそれを成し遂げてきたのか、さらにどんな「小さな進歩」が必要なのか、を分析する必要があるのです。

 これはまさしく二宮金次郎が「積小為大」、すなわち「小さなことを積み重ねて大きなことを成す」と呼んだアプローチです。[JOG(600)]


■6.292人の勇敢な若いフェミニストたちが知らないこと

 ロスリング氏はストックホルムで開かれた女性の権利に関する会議で講演をしました。そこでは292人の勇敢な若いフェミニストが世界中から集まっていました。みな、女性がもっといい教育を受けられるように、と望む人ばかりです。彼女たちに、ロスリング氏は次の質問をしました。

__________
質問 世界中の30歳男性は、平均10年間の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう?
  A 9年
  B 6年
  C 3年
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 正解はAです。しかし「女性がもっといい教育を受けられるように」と、わざわざ世界中からストックホルムまで集まった若いフェミニストたちの正解率は、わずか8%でした。

 この質問で最も正解率の高い国はハンガリーで32%、チンパンジーにわずかに及びません。男女同権が最も進んでいると思われるスウェーデンですら18%。しかし、ここに集まったフェミニストたちの知識は、これらの一般国民にもはるかに及ばないのです。

 ロスリング氏は、こうした認識の歪みを「単純化本能」と呼んでいます。「世の中の様々な問題に一つの原因と一つの回答を当てはめてしまう傾向」です。フェミニストたちの中には、世の中の全ての問題に「女性差別」という原因を見て、それさえなくせば世界のすべての問題は解決すると信じている人が多いのでしょう。

 そういう人たちから見れば、女性は教育でも差別を受けている「はず」で、学校教育年数が男性と1年しか違わないなどということは、「あるはずのない」ことなのでしょう。


■7.「犯人捜し本能」と「焦り本能」

「単純化本能」に従って働くのが「犯人探し」本能でしょう。何か悪いことが起きた時に、犯人を見つけようとする本能です。女性が平等に教育を受けられないのは(相当受けているのに)、伝統的な家族制度が「犯人」だ。貧しい人々の生活がいつまでも良くならないのはなくならないのは(大きく減っているのに)、資本家階級が搾取しているからだ、といった具合です。

 同時に「焦り本能」も蠢(うごめ)きます。貧しい人々を救うには、資本家の搾取のもとでは何十年かかっても問題は解決しない。革命で一挙に資本家階級を打倒しなければ、と焦ります。

 人間の持つ「ネガティブ本能」「単純化本能」「犯人探し本能」「焦り本能」は、進化の過程で種族保存のために発達させた本能なのかもしれません。

 例えば草原で見かけない異部族の一団を見た、という仲間のネガティブ情報を、人々は恐怖心から敏感に受けとります。そういえば仲間の一人が昨日から帰ってこないのも、彼らに襲われたのではないかと「単純化本能」「犯人探し本能」を働かせます。そんな危険な奴らは早く退治しなければ、と「焦り本能」に駆られます。

 戦いあっている部族や猛獣が多いアフリカの草原で、人間が身を守るためには、脳がこういう働きをする事が必要だったでしょう。

 しかしこういう原始本能は、複雑な社会問題を解決するには向いていません。より良い社会を着実に作っていくためには、悪い情報のみに注目する「ネガティブ本能」を抑えて、「良くなっている」という事実にも気がつく必要があります。また、なんでもすぐに「単純化」し、「犯人捜し」をするのではなく、複雑な現象を解析して、原因をしっかり把握しなければなりません。

 さらには「焦り本能」で衝動的な対応をするのではなく、真の原因に対して、よく考え抜いた効果的な手を打たなければなりません。

 こういう理性的態度の反面教師が共産主義だったのではないでしょうか。貧困の問題に対して、「小さな進歩」でよくなってきた事実を無視して「ネガティブ本能」だけで貧困状態を捉え、資本家階級を「犯人」とし、「焦り本能」が暴走して、暴力革命という短絡的な行動をとったように見えます。その結果、世界で1億人ともいわれる犠牲者を出したのでしょう。

 人間の原始本能が暴走すると、事実は覆い隠され、理性が目くらましされて、こういう悲劇が生まれます。


■8.ファクトフルネスに基づく確かな足取り

 レスリング氏の主張するファクトフルネス、すなわち本能の偏見を抑え、事実に基づいて考えようとする姿勢は、こうした人間の原始本能の暴走を避けるための効果的な予防策でしょう。

 まずはネガティブ本能ではなく、今の「悪さ」を認識しつつも、無数の「小さな進歩」によって「良くなっている」という事実を見つめ、さらに良くするためには何をしていったら良いのかを考える。「犯人探し本能」をおさえて、犯人ではなく原因を考える。そして焦りのあまり衝動的な行動を取るのではなく、その原因に対して何をなすべきか、冷静に考えて行く。

 このように原始本能ではなく、事実をファクトフルネスの姿勢で見据えつつ、理性と経験を頼りに、一歩一歩着実に積小為大を続けていく。これが人類の文明を築いてきた確かな足取りです。真の保守主義とは、この足取りを着実に継続しよう、という態度なのです。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

・JOG(600) 二宮金次郎と「積小為大」
 二宮金次郎の農村復興事業が、日本人の勤勉な国民性を形成した。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257Enippon/jogdb_h21/jog600.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・ロスリング、ハンス他『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(Kindle版)★★★、日経BP、H30
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B07LG7TG5N/japanontheg01-22/

・気象庁「中心気圧が低い台風」
http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/air_pressure.html


■おたより


■「どのような・どれだけのデータを見るか」も重要(デジタル難民さん)

「データを見よ」「データに基づいて論ぜよ」・・・とは
よく言われ、そう意識している人も多いと思います。

しかし、データの見方というのは難しいなと、この記事を
見てそう思いました。
文中でも書かれていた25年ぶりの台風も、「過去25年間
そのような台風はなかった」という意味においては、
決して間違いを言っているわけではありません。
25年以上昔に目を向けたときに初めて、過去には
もっと多くの台風被害があったとわかります。

してみると、データをただ見るだけでなく、(データの
真贋以外にも)どのような・どれだけのデータを見るか
(取捨選択するか)が重要になるのではないでしょうか?

これは結構ハードルが高いことだと思いますので、
メディアにはここを正確に伝える役割を担って
もらいたいのですが、むしろセンセーショナリズムに
走りがちな現状は残念でなりません。


■伊勢雅臣より

 ご指摘の通りです。「どのような・どれだけのデータを見るか」に関しては「川を上れ、海を渡れ」が指針になるでしょう。十分過去に遡り、また海外とも比較してみよう、という事を心がければ、マスコミのセンセーショナリズムも見抜けます。

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