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No.1164 自由社歴史教科書を「一発不合格」で葬った検定意見を読み解く


 292件も「生徒が理解しがたい、誤解するおそれ」という検定意見がついて「一発不合格」と葬られた、その実態は?

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■1.歴史教科書クイズ

 以下の説明文は、中学の歴史教科書にはふさわしくありません。どこが問題なのでしょうか?

1) 仏教や儒教など外来の思想が伝来するはるか以前から、日本にあった宗教が神道です。

2)日本の皇室は、神話の時代から現在まで続く世界で最も古い王朝です。

3) 聖徳太子は、内政でも外交でも、8世紀に完成する日本の古代律令国家建設の方向を示した指導者でした。

 本年3月に発表された中学校教科書の検定結果で、自由社の歴史教科書は「著しく欠陥箇所が多い」として「一発不合格」とされました。上に掲げた3件は、その「欠陥」の一部です。今回、「検定意見の数が1ページあたり1.2カ所以上」を超えると不合格となるというルールが新しく作られ、それが最初に適用されたのが自由社の教科書でした。

 自由社教科書のページ数からいうと、376件以上が「一発不合格」のラインでしたが、405件もの検定意見がつきました。そのうち292件、72.1%が、「生徒が理解しがたい、誤解するおそれ」があるというものでした。

検定不合格 新しい歴史教科書 - 藤岡信勝
検定不合格 新しい歴史教科書 - 藤岡信勝


■2.「神道の宗教としての体系化の時期」

 中学の歴史の教師でも、これらの記述のどこに「理解しがたい、誤解するおそれ」があるのか、答えられる人はほとんどいないでしょう。藤岡信勝・元東京大学教授の新著『教科書抹殺』で示されている検定意見を見てみましょう。

1) 仏教や儒教など外来の思想が伝来するはるか以前から、日本にあった宗教が神道です。

 これについては、「生徒が誤解するおそれのある表現である。(神道の宗教としての体系化の時期)」という指摘がなされました。たしかに仏教や儒教のように、ある程度「体系化」されたものが「宗教」であるとすれば、そういう体系化された「神道」が仏教や儒教のはるか以前から日本にあった、と「誤解するおそれのある表現」かも知れません。

 しかし、これに続く以下の文章を読めば、そんな「誤解するおそれ」はありえないでしょう。

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 神道には開祖はいません。もともと「惟神(かんながら)の道」といい、「神の道にしたがうこと」「自然と神の道」の意味です。私たちの祖先は1万3千年前にはすでに土偶を作り、目に見えない神に祈りをささげていました。それはキリスト教などの神とは少し違いました。
 日本には美しい四季があり、豊かな森や海、清らかで豊富な水に恵まれていました。また地震、津波、洪水、噴火など多くの自然災害にみまわれました。そうしたなか、太陽や月、山、川、木、火、水、風など自然界のものや現象に人知を超えた神をみて、祈りの対象としました。やがて祈りの場所に神社ができました。
今でもご神体が大きな山や木、岩であったり、そのような場所を「パワースポット」として力を得ようとする文化と伝統が日本人の中に息づいています。[藤岡、p198]
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 体系化された教義よりも、自然への畏敬を本質とする神道を簡潔的確に表現した見事な文章です。外国人に対してこんな説明ができれば、立派な国際派日本人といえます。

 宗教は「体系化」された教義を持つべき、というのは、キリスト教を前提とした西洋人の先入観です。彼らは、体系化された教義を持たない精霊信仰などを「原始宗教」として見下していました。しかし、体系化されたカトリックとプロテスタントは教義上の論争から、何百万人も殺し合ってきました。このどこが「高等宗教」でしょう。

 西洋人の間にも、体系化された教義などなくとも、自然への畏敬を本質とする神道の方が平和的、現代的と考える人は増えています。[1095] こういう歴史と国際的な動向を無視して、「体系化」云々の話を出すのは、神道の本質を見失った横やりです。


■3.「皇室が神話の時代から始まっている」は誤解を招く?

 次に、2)の「日本の皇室は、神話の時代から現在まで続く世界で最も古い王朝です」という一節を考えて見ましょう。この一文への指摘事項は「生徒が誤解するおそれのある表現である(神話が史実であるかのように誤解する)」というものです。[藤岡他、p188]

 この意見には「えっ」と驚きました。この一文は「皇室が神話の時代から始まっている」ということで、「皇室に関する神話がすべて史実である」などとは言ってはいません。どこをどう読んだら「神話が史実であるかのように誤解」するのでしょうか?

「神話の時代」を、文字がほとんど使われていなかった古墳時代(3世紀中葉~7世紀頃)までと考えても、最大の古墳に祀られている仁徳天皇(4世紀末~5世紀前半)はすでに第16代。従って皇室が「神話の時代」から始まっているのは、史実そのものなのです。


■4.調査官の考える「史実」とは?

 この意見をつけた調査官は「神話と史実はまったく相容れない」と思い込まれているようです。しかし神話が一定の史実を含むことはありえます。たとえば、シュリーマンはギリシア神話に登場する伝説上の都市トロイアを発掘して、それが史実であることを証明しました。

 文化人類学者のレヴィ=ストロースは、日本の神話と歴史には連続性があり、これは他の文化には見られない特徴である、と指摘しています[藤岡他、p189] 神話と歴史を対立的・排他的に見るのは、神が7日間で天地を創造したなどと説くキリスト教と戦ってきた近代西洋の固定観念ではないでしょうか?

 ちなみに、前節で仁徳天皇が「祀られている」と書きましたが、自由社も同様の表現をしており、これも調査官から「間違い」で、「葬られている」が正しい、との検定意見がつきました。

 しかし、現在の多くの歴史学者はこの古墳が「仁徳天皇が葬られている」事の確証がないから、わざわざ大仙古墳と呼んでいるのでしょう。それに従えば、「仁徳天皇が葬られている」というのは「史実」でないかもしれません。それにも関わらず、この古墳には拝所や鳥居があり、先人たちが「仁徳天皇を祀ってきた」ことは史実です。

 どうも調査官の方々の言う「史実」とは、自由社の記述に難癖をつけるための方便なのでは、という疑いが湧いてきました。


■5.学習指導要領を無視した検定意見

 3)の「聖徳太子は、内政でも外交でも、8世紀に完成する日本の古代律令国家建設の方向を示した指導者でした」を見てみましょう。

 検定意見は「生徒にとって理解しがたい表現である」といいます。どこがどう理解しがたいのか、この意見自体が「理解しがたい」ものです。その説明として「(聖徳太子と古代律令国家建設との関係についての学説状況)」という、ぶっきらぼうな注記がなされています。聖徳太子が古代律令国家建設に関係したという事に疑いをもつ学説状況を書け、という事のようです。

 聖徳太子の記述に関しては、「学習指導要領(平成29年告示)解説」にて、次のように述べられています。

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・・・「律令国家の確立に至るまでの過程」については,聖徳太子の政治,大化の改新から律令国家の確立に至るまでの過程を,小学校での学習内容を活用して大きく捉えさせるようにすること。
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 ここでは明らかに、聖徳太子の政治は「律令国家の確立に至るまでの過程」のはじまりとして捉えられています。自由社の記述は、内政では冠位十二階と十七条憲法、外交では遣隋使の派遣を説明した上で「古代律令国家建設の方向を示した指導者」と記述しているわけで、学習指導要領にぴったり沿った記述となっています。

 たとえ新規の学説が出ていても、それを書かせたいなら、まずは学習指導要領を改定すべきで、現在の学習指導要領を差し置いて、それに忠実に従っている教科書に文句をつけるのは筋違いです。


■6.聖徳太子は「架空の人物」だったという奇説

 ここで検定意見の言う「学説状況」とは何でしょうか? この点については、國學院大學日本文化研究所の高森明勅氏が次のように説明しています。

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・・・聖徳太子を「架空の人物」と断定する特異な学説が登場した。大山誠一氏が唱えた仮説だ(『〈聖徳太子〉の誕生』ほか)。
 学界では支持が広がらなかったものの、ジャーナリズムの世界では、刺激的な内容だっただけに、大きな反響を呼んだ。[高森]
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 この「学説」は「『日本書紀』以前に太子の実在を裏付ける確実な史料がないことから、太子は『日本書紀』のでっちあげ」というものでした。しかし、高森氏は『日本書紀』以前の『播磨国風土記』(713~715年)に「聖徳王の御代」、法起寺(ほっきじ)の塔の銘文(707年)にも「聖徳皇」なる記述が存在することを指摘して、この「学説」の過ちを、史実で示しています。

 実は、この「学説」が影響して、学習指導要領でも「聖徳太子」という表記を「厩戸王(うまやどのおう)」に差し替えようとする動きまでありました。幸い、この案が公開されるや、数千件の批判がパブリック・コメントとして寄せられて、沙汰止みとなりました。しかし、学習指導要領には以下のような記述が残されました。
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なお,「聖徳太子の政治を取り上げる際には、聖徳太子が古事記や日本書紀においては「厩戸皇子」などと表記され、後に「聖徳太子」と称されるようになったことに触れること。
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 これに基づいて、自由社では、
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 聖徳太子は皇族の一人として生まれ、古事記や日本書紀では厩戸皇子などとも表記されています。
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 と、記述しました。しかし、これにも検定意見がつき、
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 学習指導要領に示す内容の取り扱いに照らして、扱いが不適切である。(内容の取り扱い(3)のアの「後に「聖徳太子」と称されるようになったことに触れること」)
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 と指摘されました。その前の「律令国家の確立に至るまでの過程」は学習指導要領を無視しながら、こういう所はちゃっかり使うところが、二重基準ですね。どうやら「後に」という言葉が入っていない点が、ご不満のようです。聖徳太子という偉大な人物像は、後世の創作だと書かせたいのでしょう。

 後世と言っても、太子が亡くなられたのが622年、それから100年も経たないうちに「聖徳王」と呼ばれて、太子を敬仰する機運が広まっていたのです。

 現代でも多くの人々が「聖徳太子」という呼称を止めることに猛烈に反対したのは、太子に対する国民的な敬仰からでしょう。1300年もの間、我々の先人たちは太子を尊敬してきました。その「史実」を伝えることは、国民教育の重要な使命です。それを一片の奇説で葬り去ろうとすることは、国民の歴史常識に対するテロ行為ではないでしょうか。


■7.「令和」発表前に「■■」と伏せていたら、「理解しがたい」!?

 本稿では、教科書調査官たちがお持ちらしい特異な歴史観を見てきました。しかし、自由社の教科書を一発不合格にするために405項目も検定意見をつけるには、学術的な指摘だけでは足らなかったようです。もっとレベルの低い、明らかに恣意的な指摘もありました。たとえば、

・新年号「令和」の発表前に原稿を印刷製本して提出するために、新年号を「■■」や「○○」と仮記載した部分5カ所が、「生徒にとって理解しがたい表現である」。

・ロンドン軍縮会議で「米英日の補助艦の比率が10:10:7」という記述に対して、「不正確である。(日本の比率)」。「7」では不正確で、「6.975」と書かなければいけないそうです。前回の検定に合格している帝国書院の現行教科書でも「米10:英10:日7」と表記しています。自由社だからダメなのでしょうか?


■8.民主主義国家にふさわしい検定プロセスを

 現代史でも特異な検定意見がついています。

・「こうしたGHQの歴史の見方をもとに、・・・開かれたのが、東京裁判です」に、「生徒が誤解するおそれがある表現である」。調査官は東京裁判がGHQの創作した日本侵略史観によって開かれたことを、中学生徒には知らせたくないようです。

・「(マルクスの理論と理想は)理想とは逆の悲惨な結果をもたらしました」に「マルクス主義がもたらした結果について、一面的にすぎる」。一説に1億人の犠牲者を出したマルクス主義の結果に比較できるような「別の一面」がありうるのでしょうか?

 こういうご意見を読むと、筋金入りの左翼史観をお持ちの教科書調査官が、自由社教科書を狙い撃ちにして「一発不合格」にした、というのが事の真相としか思えません。

 現在の教科書検定は密室の中で、数人の調査官が秘密裏のうちに断を下す制度です。その制度を悪用して、こういう怪しげな検定意見をたくさんつけて、一発不合格で特定の教科書を葬り去ることができる。なにやら共産党政権下の秘密裁判のようですね。

 我が国は自由民主主義国家なのですから、審議過程や検定意見、教科書会社からの反論など、すべて公開して、国民の意見を広く聞いた上で、検定合格または不合格を出す、という透明性のあるプロセスの方がふさわしいと思います。次世代の国民を育てるという国家最重要事業に、国民が任免もできない教科書調査官の秘密独裁は、国民主権にふさわしくありません。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

・JOG(1095) ポケモンが広める神道的な世界観~マンリオ・カデロ、加瀬英明『神道が世界を救う』を読む
 自然への畏敬を説く神道は世界の諸宗教と両立し、その対立を和らげる可能性を持っている。
http://blog.jog-net.jp/201812/article_7.html

・伊勢雅臣『比較 中学歴史教科書-国際派日本人を育てる』、勉誠出版、H30
アマゾン「中学生の社会」1位、「教科教育 > 社会」1位、「日本史」11位、総合252位(H30/11/10調べ)
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■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・高森明勅「聖徳太子は『架空の人物』か」、『正論』R0204

・藤岡信勝他『教科書抹殺 文科省は「つくる会」をこうして狙い撃ちした』★★、飛鳥新社、R02
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4864107610/japanontheg01-22/

・藤岡信勝『検定不合格 新しい歴史教科書』★★★、自由社、R02
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4908979111/japanontheg01-22/

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