No.1162 5Gで自然豊かな地方暮らし


 5Gが仕事、教育、娯楽、医療を地方にもたらし、自然豊かな暮らしを復活させる。

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■1.「在宅勤務なら、何も都会に住まなくとも」

 武漢コロナ禍で、多くの人が在宅勤務(テレワーク)を余儀なくされています。読者の皆さんの中にも、そういう方が多いでしょう。筆者も、もう2週間ほど家に籠もって、遠出したのはインターネットでのライブ放送で、大阪の都心部にある会場に出かけた程度です。

 あとは毎日、テレビ会議、メール、電話で仕事を進めています。そうしているうちに、ずっと家にいるなら都会に住んでいなくともいいのではないか、と気がつきました。昔から、海と山に近く、できれば天然温泉のある地方での暮らしを夢見ていましたが、案外、実現できるかも、と思い始めました。

 そんな自然豊かな暮らしが、たまたま読んでいた総務省発行の『情報通信白書』で紹介されていました。和歌山県の白浜町がサテライトオフィスを構えて、いくつもの企業の誘致に成功したという事例です。白浜は昔は「関西の奥座敷」とも呼ばれる有名な観光地で、『白書』には次のように紹介されています。

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 温暖な気候に恵まれるものの険しい山地が海に迫り平地の少ない和歌山県、その南部に白浜町は位置している。町の人口は約2万人だが、温泉、海水浴場、熊野古道、新鮮な魚介類などの豊かな自然と観光資源を擁し、年間334万人(2018年)の観光客が訪れる。県内には高野山、熊野三山など世界的な観光スポットも存在する。[総務省、p206]
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 こういう、いかにも日本列島らしい自然豊かな地方に職場を移した企業がいくつもある、というのです。

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南紀白浜空港。滑走路の延長上に白良浜がある。( Wikipedia, 写真小僧 さん撮影)


■2.地域につながり、地域も自分も元気になる

 白浜町は平成16(2004)年に、海を見下ろす高台にある保養所跡地を改装して、貸しオフィス「白浜町ITビジネスオフィス」を開設しました。当初、2社が入ったものの、やがて退去してしまい、ここ5年以上は空き家状態になっていたそうです。

 その後、白浜町総務課に着任した坂本和大氏は、退去した企業に聞き取りを行い、「生活面含めてのフォローがなかった」事が問題だったと気がつきました。そこで氏は、私生活での交流や人間関係も含めて相談に乗る支援体制を、町として整えました。

 並行して総務省の推進する「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」に採択され、先進的な情報通信網を導入しました。そうするとNECのグループ会社や、世界売り上げで1兆円を超す米ソフト企業の日本法人など次々と入居して、当初の7室がすべて埋まり、拡張した第2オフィスも早々に満室になりました。

 これらの企業は遠隔からのシステム開発やサポートのみならず、テレビ会議やメール、電話による遠隔営業活動も行っています。本社を東京から白浜町に移す企業も出てきました。

 通勤も東京では片道80分ほどもかかっていたのが、車で5分程度になり、従業員は浮いた時間で趣味や家族との憩い、地元での活動を満喫しています。営業面では案件成約数が他拠点より20%も多くなるという成果も出ました。白浜に移住した人もいますし、東京から数ヶ月程度出張滞在して、仕事をしながらこの地でバケーションを楽しむ人など、さまざまです。

 地域貢献も活発で、地元の小中学生を対象にしたプログラミング授業、職場体験受け入れ、地元企業へのセミナー、社員による熊野古道の道普請などを行っています。地域の住民との距離が近い分、自分の活動の手応えを直接的に感じとる事ができるそうです。

 大都市での長距離通勤で疲れ切り、家族との時間や趣味の時間も十分にとれず、地元社会との付き合いもほとんどない都会のサラリーマンから見れば、はるかに人間らしい暮らしです。

 地域社会も、こういう企業や人々を迎えて活性化されます。情報通信技術は、地域に根ざし、地域の自然に親しむ暮らしを切り拓く力を持っているのです。


■3.都市の過密と地方の過疎の両極端

 地方に行けば、こうした自然豊かな生活が可能なのに、人口の都市集中が続いています。平成22(2010)年から平成27(2015)年の都道府県別の人口増減率を見ると、増えているのは東京(2.7%)、埼玉(0.9%)、神奈川(0.9%)、千葉(0.1%)、愛知(1.0%)、滋賀(0.2%)、福岡(0.6%)、沖縄(3.0%)の8都府県のみで、残りの39道府県はすべてマイナスです[統計局]。

 大都市圏は人口密度がすでに高いのに、ますます地方から人口が流入し、過密化がさらに進んでいます。それ以外の道府県は人口流出と高齢化による自然減のダブルパンチに見舞われているわけです。

 沖縄は自然増で人口が増えている唯一の県で、「親族や地域のコミュニティの結びつきが伝統的に強い」事が一因と言われています。こうした地域社会が理想的なのですが、その他の都道府県では過密化か、過疎化かの両極端に突き進んでいます。

 もともと豊かな海と山に恵まれた我が国土を十分に活用できずに、地方は過疎化し、大都市では限られた平地に過大な人口が密集して、自然とは疎遠の生活を送っています。ご先祖様が見たら、「何と、もったいない、ムダな事を」と言われるでしょう。


■4.「時間・場所・規模の制約を超える」

 そもそも、なぜ人口が大都市圏に流入するのでしょうか? 仕事、教育、娯楽、医療など、都会でしか手に入らない機会やサービスがあるからでしょう。それらを求めて、地方に生まれた若い人々は都会に移り住んでいく。移住できないお年寄りは仕事も娯楽も医療も乏しい地方に残って、過疎化・高齢化していっています。

 こうした人口の移動パターンを逆転して、再び地方に人口を環流させ、豊かな地域社会を築く可能性を秘めているのが、5G(第五世代)と呼ばれる最新の情報通信技術です。

 冒頭で紹介した白浜町の事例は、既存の情報通信技術でも地方に仕事を創った好例ですが、5Gを使えば、さらに教育、娯楽、医療などでも、地方にいながら大都市と変わらないサービスを受けることができるようになります。

 総務省の『白書』では、5Gによって築かれる新しい経済社会の特質を「時間・場所・規模の制約を超える」と表現しています。[総務省、p134]

 たとえば、白浜町の事例では、東京の顧客に対して、白浜町から商談を持ちかけることが可能になっています。電話や電子メール、テレビ会議で、数百キロ離れていても、仕事ができます。これが「場所の制約」を乗り越えるという事です。

 また、メールであれば、顧客と必ずしも同じ時間帯に仕事をしなければならない、という事もありません。昼間、海釣りに出かけている間に受信した顧客の問合せメールに、夜、返事を書くということもできます。これが「時間の制約」を乗り越えるということです。

 また大企業からの大きなソフト開発の注文も、白浜と他地方の数カ所で分担してこなす事もできます。これで「規模の制約」も乗り越えられます。

 従来は、「時間・場所・規模の制約」によって、仕事ばかりでなく、教育、娯楽、医療なども、地方では十分なサービスを受けられませんでした。これらの分野が、5Gによってどう変わっていくのか、見て行きましょう。


■5.なぜ大学生は都会を目指すのか?

 まず教育ですが、現在、千葉、埼玉、神奈川を含めた「東京圏」に、日本の大学生の4割が集中しています。毎年、地方から東京都内の大学に進学する学生数だけでも、10万人を超えています[お金のカタチ]。平成30(2018)年の東京都の人口増加が、10万3千人なので、流入する学生数だけ人口増加しているわけです。

 そのため、政府は「東京23区の大学の定員増を認めない」という方針を出しました。しかし、それで地方から流入する学生数のさらなる増加を止める事はできるでしょうが、流入を減らすまでには至りません。

 おそらく学生は、大学の授業に出るためだけに東京に集まってくるのではないでしょう。武漢コロナ下の現在、ほとんどの大学は、テレビ会議システムを使った遠隔授業に切り替えています。授業だけなら現在の情報通信技術でも、地方にいながら、都心の有名大学の授業を受ける事は可能です。しかし、そうなったとしても学生は都会を目指す事を止めないでしょう。

 一時、多くの大学で郊外にキャンパスを移すことが流行しました。地価も安いし、学生の生活費も安上がりだし、さらに都心への人口集中を避けるための対策としても期待されたのです。しかし、郊外キャンパスは学生には人気がありませんでした。通学時間も長いし、アルバイトやデートにも不便だからです。

 そこで、現在では多くの大学が都心の高層ビルなどにサテライト・キャンパスを持つようになってきています。やはり大学生の都市流入を防ぐには、仕事や娯楽も地方分散していく必要があります。

 冒頭の白浜町の属する和歌山県は、高校卒業生の県外進学率が全国トップです。たとえば地元で全国有名大学の遠隔授業が受けられる、アルバイトをするにも将来の就職にも、前述のように国内外の有名企業が地元にある。さらには弊誌で述べてきたように[a,b]、地元の林業や漁業が元気になって、そちらにも若い人たちが希望をもてる就業機会がある、となれば、どうでしょう。

 地元にこういうワクワクするような暮らしがあるなら、青年たちは家族と離れ、高い下宿代を払ってまで、大阪や東京に出て行くでしょうか?


■6.地方にいても都会で遊べる

 もう一つ、青年層の都会への流出を止め、地方に環流させるためには、都会でなければ得られない娯楽を地方でも楽しめるようにする必要があります。巨大なテーマパークやショッピングモール、スポーツ観戦などは、まさに「時間・場所・規模の制約」に縛られて、大都会でしか体験できません。

 平成31(2019)年3月、ソフトバンクは福岡ヤフオク!ドームで、仮想現実(VR)を用いたライブ映像のリアルタイム配信を行いました。これをスマホで受信し、VRゴーグル(水中メガネのように顔面に装着して映像を見る器具)で見ると、まるで自分が観客席に座っているように試合を観ることができます。

 この技術が普及すれば、彼女と一緒に東京デイズニーランドで遊んだり、心斎橋をぶらついたりと、地方にいながら都会でのデートも可能になります。買い物も、その仮想世界の中でできて、品物はドローンで届きます。

 こういう技術によって、白浜町にいる大学生も、わざわざ東京や大阪に住まなくとも、都会と変わらない娯楽サービスを享受することができるようになります。


■7.専門医による遠隔診断・手術

 過疎地での不十分な医療体制は、現在、お年寄りを困らせている問題ですが、さらに若者が結婚して子供と一緒に地方に住もうとする際の阻害要因でしょう。医療も5Gの登場で、大きく変わります。

 平成31(2019)年1月、和歌山県立医科大学では、約40キロ離れた僻地の診療所を5Gで接続し、同大学の専門医が高精度テレビ映像で問診をしたり、高精細な患部画像で診断をする実証実験を行いました。その結果は「診療に十分活用できる」というもので、専門医のいない過疎地でも、高度な遠隔診療が受けられることが分かりました。[亀井、956]

 また手術室で、医師が手術部位を3次元カメラで見ながら、内視鏡とロボット鉗子(かんし)で手術をすることは今でも実現していますが、5Gを使うと、この手術を遠隔地から行うことができます。地方でも、設備さえあれば、離れた所にいる専門医の手術を受けられるのです。

 医療においては、従来、「時間・場所・規模の制約」から都会の大病院に行かないと受けられない診断や手術がありましたが、5Gの登場によって、過疎地でも同じレベルの医療サービスが受けられるようになるのです。


■8.人口の地方環流で、自然豊かな生活を

 また、過疎地では自動車を運転できないお年寄りには交通手段がない、という問題が深刻化しつつありますが、自動運転のコミュニティバスや無人タクシー、ドローンによる商品配達などで、移動や買い物の制約も取り払われます。

 このように、地方でも都会と同様に就業機会があり、教育、娯楽、医療サービスを受けられるようになると、わざわざ親元から離れ、住居も狭く、生活費も高く、通勤時間も長い都会に出ていく必要はなくなっていくでしょう。

 さらに地方では、出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)が都会より高いという傾向があります。例えば、東京1.17人、大阪1.34人に対して、和歌山は1.58人、沖縄にいたっては1.94人です。地方の方が広い家に住め、また同居・近居する祖父母の助けを得ながら子育てができる、というメリットがあるからでしょう。

 都会では子供を産みたくても産めないというのが少子化の一因となっていますが、地方に住む人口が増えれば、その分、出生率が上がり、人口減少にブレーキをかけることができます。

 現在の都市への人口集中が起きたのは、近代西洋文明が従来の技術で大規模な工業生産・流通・消費を実現するために「時間・場所・規模の制約」を避けられなかったからです。過度の人口都市集中は古来の日本文明が大切にしてきた人間と自然との親密な関係を破壊し、我が国土の美しい山にも海からも切り離された人工的環境に過密な人間社会を築いてきました。

 5Gは、その「時間・場所・規模の制約」を取り払って、我々がこの美しい国土に分散して住み、自然との親密な関係を取り戻す事を可能とします。我々は、この方向で5Gを活用すべきなのです。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

a. JOG(1149) 瀕死の日本水産業を甦らせる道
 これほど好条件に恵まれた日本水産業が瀕死の状態にあるのは、よほど間違った道を歩んできたからだろう。
http://blog.jog-net.jp/202001/article_3.html

b. JOG(1160) 「鉄と石油の文明」から「木の文明」へ
「緑の日本列島」の「隠された日本の財産」が、新たな文明を開く
http://blog.jog-net.jp/202004/article_2.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・海老原城一他、『SmartCity 5.0 地方創生を加速する都市OS』(Kindle版)★★、インプレス、H31
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B07QV511FQ/japanontheg01-22/

・お金のカタチ「日本の大学生の3割が東京に!進む一極集中と地方の過疎化」、H300112
https://venture-finance.jp/archives/3424

・亀井卓也『5Gビジネス』(Kindle版)★★★、日本経済新聞出版、R01
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B07T9K9JYC/japanontheg01-22/

・総務省『令和元年版情報通信白書』(Kindle版)★★、日経印刷株式会社、R01
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B07TXBNW5M/japanontheg01-22/

・総務省統計局「平成27年国勢調査 人口速報集計結果」「国勢調査結果」
http://www.stat.go.jp/naruhodo/c1data/02_10_stt.html


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