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No.1159 「三方悪し」の現代林業


 国内の森林を放置・荒廃させ、他国の森林を収奪し、輸入代金と補助金で国富を浪費させている現代林業。
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■1.森林維持のために必要な生産量の6割しか使われていない

 弊誌1159号「『緑の列島』の奇跡」[a]で、我が国が先進国中、第三位の森林率を誇り、それが先人たちの苦闘のお陰であることを述べた。しかし、この号を次のような文章で閉じた。

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現在の「緑の列島」は先人たちの3世紀の苦闘で育てた土壌の上に、近年の海外依存という造花を飾ったものなのだ。それを本物の「緑の列島」にするためにも、現代の我々が先人の苦闘を引き継いでいく必要がある。[a]
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 現在の「緑の列島」の悲惨な実態を本号で見ていこう。その上で、本物の「緑の列島」にしていくために、現在続けられている苦闘の有様を次号で紹介する。

 まず、端的に実態を現すのは、次のデータである。年間の樹木の成長量のうち、何パーセントが木材として生産されているかの数字を見てみると2006年時点で25%である。フィンランド 75%、スウェーデン 89%、ドイツ 61%、オーストリア 87%に比べると段違いに低い。

 森林を適切に維持管理するためには、成長量の6~8割を安定的に伐採することが望ましいとされている。『日本林業はよみがえる』の著者・梶山恵司(ひさし)元内閣審議官はこう評している。

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 日本の森林は手入れ不足で真っ暗なものが多いというのは、単なるイメージだけではなく、こうした林業の基本指標にも端的に表われている。
 日本の森林の成長量からすると、本来なら5000万立方メートル程度の木材生産を行わないと森林を適切に維持管理できないことになる。[梶山、p34]
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 平成30(2018)年の木材生産量は3,020万立米(立方メートル)と増えてきたとはいえ、森林維持のために必要な生産量の6割の水準に過ぎない。列島を覆う緑は十分に使われていないために、荒廃が進んでいるのだ。


■2.「三方悪し」の日本林業

 木材生産量が少ないのは、木材需要が少ないからではない。総需要量は8,248万立米。うち3,020万立米が国内生産で、残りの5,227万立米が輸入だ。自給率にして37%。すなわち、国内の森林は必要分の一部しか使われていないのに、海外からの輸入で国内需要の6割以上をまかなっているのだ。

 この数字だけ見れば、日本は自国の森林を温存しつつ、海外の森林資源を収奪する「環境テロリスト」と穿(うが)った見方をされても仕方がない[タットマン、p6]。しかし、「温存」とは言えない。国内の森林で適切な生産量を維持しないがために荒廃を招いているからだ。

 木材の輸入代金は1兆2346億円に上る。自給率37%と言っても林業にかかる経費の7割程度が補助金頼みと言われている。現在の日本林業は、自国の森林を放置・荒廃させ、他国の森林を収奪し、輸入代金と補助金で国富を浪費させている、というまさに「三方悪し」の状態なのである。


■3.「私は絶対に地元の材、国産材を使いません」

 なぜ、こんな事になっているのか。良く言われる「安価な外材」説は、もはや事実ではない。

[梶山]では、国産材としてスギの中丸太と、それに競合する外材として北米産のツガの価格を比較している。立米あたりの価格では、国産材が立米あたり1万円強に対して、外材では2万4千円ほど。国産材の方がはるかに安いのに、国内でもあまり使われていないのだ。

 そもそも、世界の木材生産の3分の2は先進国で行われている。だから人件費や輸送コストなども日本より安価な訳ではない。しかも木材は重く嵩張るので、運搬費のウエイトが高い。従って輸入材の方が高くて当然なのだ。それなのに、なぜ国産材は使われないのか?

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 あるシンポジウムでの出来事だ。「地元の材を使ってほしい」という意見が出る中で会場から手が挙がり、工務店の経営者だと自己紹介したうえで「私は絶対に地元の材、国産材を使いません」と断言した人がいた。理由は、すでに紹介した乾燥問題や寸法問題(JOG注: 後述)、それに流通の問題があるからである。
そして「ちゃんと乾燥させてくれと製材所に言っても、全然やって
くれない。現場に納入する期日も守られない」と不満を滔滔(とうとう)と述べた。
 結局、外材の方が安心できる。商社が間に入って仕切るため、量も流通も齟齬(そご)なく実行してくれるからだ。だから長く外材に頼るようになってしまった。[田中、p143]
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 木造家屋を建てようとすれば、品質の安定した木材が指定された納期どおり入ってこなければ、工務店も困ってしまう。納期が守られなければ、建設現場で職人が遊んでしまうし、家屋の完成納期が遅れたら、注文主とのトラブルになる。乾燥が不十分で、建設後に木材が縮んで隙間風が入るようでは、これまた補償問題となる。

 なにやら、かつてのアメリカ国民が、安く品質の悪い国産車よりも、値段は高いが高品質の日本車を選んだのと、ちょうど裏返しの話だ。国産材が売れないのは、いくら安くとも、品質、納期がちゃんとしていなくては買ってくれない、というごく当たり前の話のようだ。


■4.年金の足しにする程度の林業収入

 国産材の値段が安いといっても、経営努力で効率を上げて、安くしているわけではない。林業従事者が買い叩かれているのだ。国産材の1立米1万円とは、直径30センチ、長さ4メートルの丸太にして3600円である。数十年掛けて育てた大木が、1本3600円では、林業従事者の生活が成り立たたない。

 農林水産省の統計では、山林を20ヘクタール保有している平均的な家族が年間151立米の伐採を行って、その粗収益が年間248万円、ここから諸々の経費237万円を差し引いた林業所得はわずか11万円、というデータが紹介されている。これでは品質の良い木材を納期通り納入するのも不可能だろう。

 こんな状態でも、国産材の供給が行われているのは、膨大な補助金が投入されているからだ。一般に林業にかかる経費の7割程度が補助金と言われている。上述の経費237万円の7割に補助金が出たとしても166万円で、これを11万円に加えても林業所得は177万円。一家数人の生計を支えられる金額ではない。お年寄りが年金の足しにする程度だ。

 林業従事者数は平成27(2015)年で4万5千人強に過ぎず、うち65歳以上が25%。高齢者の引退もあって、この5年では毎年千人以上のペースで減っている。林野庁では新規就業者を増やすべく、教育研修などへの給付金支給を行っているが、林業就業者の減少を食い止めるまでには至っていない。

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 林業大学校生や卒業生に話を聞くと、待遇が悪すぎて就職先の選択に躊躇するという。給与が低いだけにとどまらず、日当払いだったり、休暇が土日などではなく雨の日としている事業体もある。[田中、p232]
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 またチェーンソーを使ったり、立木を倒したりする危険な作業で、安全教育も不十分なため、死傷者数が1314人、死亡者が40人(平成29年)と、事故率では全産業平均の15倍もの危険作業となっている[林野庁]。これでは若者がせっかく就業しても、5年で半数以上が辞めてしまう、という実態も無理はない。


■5.ドイツの「三方良し」林業

 林業は現代では衰退産業だから、こんな惨状になっているのか、と思ったら、大間違いだ。世界では林業は成長産業なのである。ドイツを例にとって見よう。[梶山、p38]

 ドイツの森林面積は1057万ヘクタールと、日本の2500万ヘクタールの半分以下だが、生産量は6,230万立米と日本の2倍以上。しかもここ20年ほどで倍増している。ドイツ国内の需要をまかなうだけでなく、輸出比率は5割近くに達している。

 林業そのものの雇用者は9万8千人と日本の2倍程度だが、製材や家具、木造住宅、内装、製紙、林業関連機械など、木材関連の産業としては、約100万人の雇用を形成している。これは機械86万人、電気電子80万人など他産業を上回るドイツ経済最大の産業セクターである。

 また産出した木材のうち、住宅建設などに使われる良質部分は製材用に56%であり、低質材や残材などを利用した木質ボードが13%、紙パルプが7%。最後に木材を燃料とするエネルギー生産に28%と、切り出した木材を使い尽くす体制ができている。木材を燃料とする木質バイオマス利用は全エネルギー生産の4%を占め、関連雇用も11万人に達している。[梶山、p43]

 森林の価値は木材生産だけではない。水源涵養、治山治水、景観、観光など、森林の多面的機能が重視されている。そのためにも、一定面積に単一の樹木を一度に植えて一度に伐採するやり方ではなく、針葉樹と広葉樹、若い木と成熟した木を混在させ、さらにその土地本来の樹種に近づける方法がとられている。

 これはかつての「黒い森」では成長の早いトウヒを一斉に植えていたが、暴風や酸性雨などに弱い事が判明したので、森の多様化を進めたのである。伐採も成熟した木を選んで行うので手間はかかるが、市場の需給に合わせて価格の高い時を狙って販売する。

 このようにドイツの林業は、売り手にも、世間にも、自然にも優しい、まさに「三方良し」の林業なのである。


■6.ドイツ人の専門家が、日本の林業を見たら

 日本とドイツの違いは、日本の森林を視察したドイツの専門家の発言から窺い知ることができる。

 まず、ドイツに比べ、日本は気候が温暖で、雨も多いため、樹木の生育が速い。ドイツのフォレスター(森林管理者)は、日本の山を埋め尽くしているスギやヒノキを見て、その蓄積量に驚くばかりだった、という[梶山、p258]。

 劣っているのは人間の方だ。梶山氏は、ドイツ人の森林管理の専門家と一緒に、ある県の間伐の現場を視察した。そこでは「荒廃森林の整備」を目的とした森林税からの補助金を使って、せっかく育てた人工林を帯状に伐採していた。これを見たドイツ人専門家は驚いて「これはマイニング(鉱山発掘)だ」と言った。

「鉱山発掘」とは自然の保全など考えずに、地下資源を採掘する様を言いたかったのだろう。それと同様に、森林の健全な生育など考えずに、無神経に帯状に乱伐する姿勢に驚いたのである。自然との調和を重んじてきた日本の伝統精神を忘れ去った所業である。

伐採.jpg
帯状に伐採された森林[梶山、p177]


 また、ある時、林野庁がドイツから招聘したフォレスターを日本の「林業先進地」へ案内した。機械化のモデル地域を自慢したかったのだろうが、それを見たフォレスターは、この機械化は森をだめにすると否定したそうだ。欧州の林業機械は林業に特化して開発されているが、日本の機械は建設機械をベースにしているため、重い機械が林地を踏み固めてしまう。

 このフォレスターは機械化を重視せず、一本一本ていねいに扱っている林業家の山を、「もっともドイツと似ている」と褒めたそうだ。

 世界最古の木造建築・法隆寺に代々仕えた宮大工を継いだ西岡常一氏はこう言っている。

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 木は物やありません。生きものです。人間もまた生きものですな。木も人も自然の分身ですがな。この物いわぬ木とよう話し合って、生命ある建物にかえてやるのが大工の仕事ですわ。木の命と人間の命の合作が本当の建築でっせ。[西岡]
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 林業に携わる先人たちも「木の命と人間の命の合作」という思いで森林を大切に守りつつ、木々をいただいてきたのだろう。その姿勢はドイツ人専門家が共感できるものだった。逆に言えば、現代の日本林業は先人が持っていた森林への「同胞愛」を無くしてしまったのである。

 現代日本人は、愛情を持って長年、森林を観察し、どうしたら健やかな森に育つかをじっくり考える姿勢を失ってしまった。だから短期的な経済性、効率性を追求するだけで、結果的には自国にも、他国にも、自然そのものにも良くない「三方悪し」林業に陥ってしまったのだ。


■7.「林業バブル」で失われた木々への同胞愛

 現代の日本人が伝統的な自然への同胞愛を失ってしまったのは、戦後の復興と高度成長の時期だろう。戦災復興とベビーブームで国民は大量の木材を必要としていた。そこで山奥も含めて材木を大量に切り出した結果、洪水や土砂崩れが多発するようになって、あわてて成長の速いスギを一斉に植えた。

 1970年代後半の当時の木材価格は立米あたり3万円、今の3倍もの価格で、まさに「林業バブル」だった。この高価格では人力主体の伐採でも、顧客要求を無視した押し込み販売でも、十分に商売が成り立った。こういう時代に、森林を長年にわたってじっくり愛情を持って育てる、という精神が失われてしまったのも無理はない。

 その後、薪や炭が石油に、箸や桶はプラスチックに、建材は輸入材やコンクリートに代替されて、森林の経済的価値が失われていった。経済性、効率姓のみを求める現代日本人は、国内の森林を放置し、見せかけだけの「緑の列島」で「三方悪し」の林業が残ったということだろう。

 しかし森林への同胞愛は、まだ我々の「根っこ」の中に潜んでいる。それを甦らせれば、日本の森林と林業の再生も可能となるだろう。すでにその芽はあちこちに出ている。その芽のいくつかを次号で紹介したい。
(文責 伊勢雅臣)

■おたより■

■林業に従事していたが(勝美さんより)

 私は以前、10年位?前、林業に従事していました。それまでシステムエンジニアをしていましたが、リーマンショックの余波でのゴタゴタを機に、県が行っている林業従事者の講習を受け、森林組合連合会に入り、県委託の森林公園の管理と、冬は山での作業の手伝いを行いました。

 仕事数の減少と、委託事業が競合組織に取られたなどで、人が余り、1年足らずで辞めました。(試用雇用から正式雇用に更新されなかった)

 前号は当時の林業の状況そのままで、とても共感できる内容でした。私はメインは森林公園勤務でしたので、雨天でも仕事が出来、日曜だけですが、定期の休日もありましたが、山がメインの人達は雨天は休んでいましたね。

 また、当時の国は、大型機械化を進め、そのために大きな林道を作り、その付近からの単純伐採と、効率化ばかりに力を入れていて、確かにあんなことでは、森林は駄目になるばかりだと思います。

 そもそも木材の価格が安く、数十年程度の物では利益が無い、100年位の木ならヘリコプターで運んでも採算が取れるとか言われていました。今は雇用環境も森林自体も、もっと悪くなっているのかな?

 現在は林業とは全然関係ない仕事をしていますが、山や木は好きですし、少しの期間だけど関わった林業の未来にも関心があります。次回の森林と林業の再生の可能性、とても興味があります。楽しみにしています。m(__)m

■伊勢雅臣より

 多くの人々たちが、生まれ故郷で誇りを持って林業、農業、漁業に従事する、そんな時代が来て欲しいものです、


■リンク■

a. JOG(1156) 「緑の列島」の奇跡
 日本の森林率は先進国トップのフィンランドにやや劣るだけだが、人口密度は20倍。この現代世界の奇跡はどのように生まれたのか?
http://blog.jog-net.jp/202003/article_3.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・タットマン、コンラッド『日本人はどのように自然と関わってきたのか』★、築地書館、H30
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4806715697/japanontheg01-22/

・梶山恵司『日本林業はよみがえる―森林再生のビジネスモデルを描く』★★★、日本経済新聞出版社、H23
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4532354579/japanontheg01-22/

・田中淳夫『絶望の林業』★★★、新泉社、R01
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/478771919X/japanontheg01-22/

・西岡常一、小原二郎『法隆寺を支えた木』(改版)★★★、NHKブックス、
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/414091257X/japanontheg01-22/

・林野庁『平成30年度 森林・林業白書』
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/30hakusyo/index.html


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