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No.1150 人口適正化と新技術で築く「和の文明」


 自然と調和した「和の文明」を築くべき時が来た。

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■1.近代の150年で9千万人も増えた日本の人口

 日本の2019年の出生数が年間90万人割れしたことが確実になった。90万人割れは政府予想よりも2年早く、人口減少が一段と鮮明になった。我が国の出生数は、ベビーブーム時、昭和24(1949)年の270万人から減少を続け、昭和58(1983)年までは150万人、平成27(2015)年までは100万人を維持していたが、いよいよ次の段階に入った。

 近年ベストセラーとなった『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』では、こんな未来図が描かれている。

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 2015年時点において1億2700万人を数えた日本の総人口が、40年後には9000万人を下回り、100年も経たぬうちに5000万人ほどに減る。・・・こんなに急激に人口が減るのは世界史において類例がない。われわれは、長い歴史にあって極めて特異な時代を生きているのである。[河合、33]
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 こういう予測を読むたびに、「ちょっと待って」と言いたくなる。この予測は正しいとしても、江戸末期には32百万だった日本の人口は、この150年ほどで9千万人も増えたのである。[a]

人口減少.jpg


 幕末の開国以来、我が国は近代西洋文明の優等生として人口を急激に伸ばしつつ、経済大国を築きあげてきた。しかし、自然環境から見れば、相当な無理をしている。

 9千万人も増えた人口を養うために、厖大な食料を輸入しており、食糧自給率はカロリーベースでは楽観的に計算しても54%ほどだ[b]。その一方で年間600万トン規模もの食品ロスを出している。さらに荒廃農地・耕作放棄地として無駄になっている土地が70万ヘクタールと、ピーク時の11.5%。まさに「もったいない」「天地に申し訳ない」状態なのである。

 世界に目を向ければ、現在の77億人が今後30年で20億人も増えると予想されている。発展途上国での食事の改善を考えると、今後の食糧供給は逼迫し、価格も上がっていく。今のうちに、日本列島内で持続可能な生活を築いていく事が安全保障上も必要である。

 100年後に5千万人という人口規模は、農林水産業を再建しつつ、食料自給を確立し、かつ都市の過密と地方の過疎を解消して、日本列島の自然と調和した「和の文明」を築くには、適正な水準かもしれない。近年始まった人口減少は、そろそろ近代西洋文明を卒業してこうした「和の文明」を築く時だと、八百万の神々が促しているのかのようだ。


■2.人口減少が必ずしも経済の縮小と貧困化につながるわけではない

「人口減少」というと暗いムードに包まれてしまうが、まず押さえておくべき大前提は、人口減少が必ずしも経済の縮小と貧困化につながるわけではない、ということである。過去の歴史を見ても、人口は経済発展の主要因ではなかった。

 例えば高度成長期(昭和30(1955)年~昭和45(1970)年)の実質GDP(国民総生産)は年率9.6%も伸びたが、この間の労働力人口の増加は1.2%に過ぎなかった。その後、第一次オイルショックの昭和50(1975)年以降の15年間の成長率は4.6%に落ちたが、この間の労働力人口の増加率は1.2%と同程度であった。

 実質GDP成長率と労働力人口伸び率の差は労働生産性の伸びである。すなわち高度成長期には労働生産性が8.3%伸びたのに対し、オイルショック以降は3.4%に落ちてしまった。[吉川、901]

 高度成長が始まる直前、昭和25(1950)年の日本の就業者の半分近くは農林水産業に従事していた。その後、工業化が進み、多くの人々が地方から都会へ出てきた。この工業化と都市化の進展により労働生産性は急速に向上し、それが高度成長を招いたのである。

 しかしその代償として、都市の過密化、地方の過疎化が進展した。農林水産業の疲弊、食料自給率低下も進んだ。現代日本が抱えるこれらの課題は、我が国が急速に進めた近代西洋文明の副産物なのである。

 石油ショック以降は、国内の人件費高騰に伴い、生産の海外移転が進んだ。これによって工業における労働生産性向上という果実は海外に移ってしまった。一方、製品の開発・設計、販売、管理などの生産性のはっきりしないスタッフ業務やサービス業は国内、それも都市内に残った。結果的に国内には工業化の果実は残らず、都市集中の負担ばかりが残ったのである。

 今やこれらの課題を解決しつつ、労働生産性向上に努めるべき時代なのである。


■3.「介護人材が38万人不足」?

 人口減少に伴って「2025年には介護人材が38万人不足する」との予測がある。いかにも人口減少によって、外国人労働力の導入が不可避だと訴えているようだが、このからくりは単純だ。

 この「38万人不足」とは、単純に高齢者の増加による介護需要増と、減少する労働力人口のギャップから算出されている。介護業界の賃金、生産性、企業の参入撤退、公的規制などは変わらないとしているのである。[小林峰夫「無意味な人手不足の人数推計」『週刊東洋経済』H310119]

 しかし、日本のサービス業全体の労働生産性は、米国の半分(50.7%)だ[日本生産性本部「産業別労働生産性水準の国際比較」2018.4]。介護業界の労働生産性もせいぜいその程度、あるいはそれ以下であろう。介護職員数は183万人もいるから、その労働生産性が米国の半分から、せめて2/3の水準に向上したら、約60万人分の人手増となる。

 38万人の不足はこれで充分お釣りが来るし、労働生産性の向上により介護業界の賃金も上昇すれば、求人も楽になる。企業の収益も向上するだろうから、新規参入も期待できる。そうなれば介護サービスの供給も増えて、入所待ちも解消するだろう。さらには医療技術の進展により、健康寿命を伸ばし、介護需要そのものを減らすことも目指すべきである。

 逆に38万人分の不足を外国人労働者で埋めようとしたら、介護業界の低生産性と低賃金はそのままで、日本人の従業員は減る一方であり、せっかく雇った外国人労働者も、より賃金の高い産業に逃げていってしまうだろう。これでは何の解決にもならない。労働生産性や技術革新を無視した経済論議がいかに無意味か、よく分かる事例である。


■4.日本の一人当たりGDPがドイツ並みになれば

 現在の日本の一人当たりGDP(国民総生産)は39,300ドル(2018年)、世界で26位に転落している。上位国にはルクセンブルグ、スイスなど小国家が並ぶが、これらは金融産業中心など性格が異なるため、比較は適当でない。例えば工業のみならず農林水産業などを含めたフルセットの産業構造を持つドイツは18位、47,700ドルで、日本より20%以上高い。

 ドイツの人口は8290万人、日本の3分の2ほどの規模である。我が国の労働生産性を上げて、一人当たりGDPを20%増やせば、人口が20%減っても、ドイツと同程度に豊かで、かつ経済規模としてもドイツの1.5倍ほど、現状水準では世界第3位の経済大国が維持できる。

 国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口(平成29年推計)』によれば、2053年には1億人を割って9,924万人となる。「33年後に22%減になる」と悲観しているより、この33年間に生産性を20%ほどあげて、せめてドイツ並みとし、国全体の経済規模は維持しつつも、生活水準を20%向上させる事を目標にすべきではないか。


■5.労働人口1千万人不足か、2千万人余剰か?

 それに対して「日本の労働力人口は今後十数年で1000万人近くも少なくなると見込まれる。そのすべてを機械や外国人に置き換えることにはとうてい無理があろう」[河合、33]と心配する向きがある。その一方で、AI(人工知能)などの普及により、「全体の30%に及ぶ仕事が、2030年までに消えてしまう危険にある」などという研究も発表されている。

 日本の労働力人口6720万人(2017年)の30%なら2千万人だ。労働力人口が1千万人減っても、AIで2千万人浮いてくれば、1千万人のお釣りが来る。これが事実なら、外国人労働者など入れている場合ではない。その1千万人を新産業の創造や農林水産業の再生に生かす道を考えるべきだろう。急速に進み出した情報通信革命は、急速な人口減少への天の配剤かも知れない。

 おりしも金融業界では、みずほフィナンシャルグループが1万9000人の人員削減、三井住友フィナンシャルグループが5000人弱相当の業務量削減と、最新情報通信技術やAIの活用で、人員削減が急ピッチで進められている。

 コンビニでもセルフ・レジで清算し、電子マネーで支払ってしまえば、店舗の人員も大幅削減できる。それ以外の買い物もアマゾンや楽天などの電子ショッピングで注文し、駅やマンションの宅配ボックスで商品で受け取れば、店員や配達員も少なくて済む。自動運転が普及すれば、バスやタクシー、トラックの運転手も削減できる。

 このような情報通信技術の革新をテコに、人口減少に対応しつつ、新しい産業構造の建設を進めなければならない。


■6.人々は機械のおかげで豊かになってきた

 吉川洋・東大名誉教授によれば、

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 伝統的に人間がやっていた仕事の多くは機械によって代替されてきた。しかしその結果、人間は「お払い箱」になったのではなく、むしろ労働生産性が上がり、賃金は上昇してきた。つまり、人々は機械のおかげで豊かになってきたのである。[吉川、983]
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 例えばかつては会社の給料も現金で支給されていた。経理の担当者が銀行からお金をおろし、社員一人ひとりの給料袋に現金を入れ、その袋を手で配っていたのである。それが銀行振り込みになると、このような作業は全て不要となった。だからといって、その作業していた人たちがお払い箱になったのではなく、コンピューターではできない仕事に振り向けられたのである。

 このようにオフィスではコンピュータ化ができる仕事がたくさんあり、特に日本は欧米諸国に比べてこの分野での労働生産性が低い。それだけ稼ぎ代も大きいわけで、労働生産性を上げる余地は大いにあると考えられる。


■7.都市と地方の格差を解消する5G技術

 新技術の中でも特に社会的なインパクトが大きいのが、最近話題の5G(第5世代移動通信システム)である。

 例えば離島にいる患者の手術を、本土にいる医者が行う遠隔医療が実現しよう。高速大容量通信により検査機器のデータを見ながら、ロボットハンドでメスを操る。また対面診療も、高精度のテレビ電話と検査ロボットにより遠隔地からでも、できるようになる。

 アバター(電子的分身)の技術が確立すれば、ドラえもんの「どこでもドア」が実現する。自宅にいながら、遠くの会社のオフィスに分身を送って、会議に参加できる。仕事の後の一杯飲みも、互いに自宅で好きな酒を飲みながら、ワイワイ騒げる。学生は地方にいながら遠くの大学で講義を受けたり、スタジアムでサッカーの試合を見たりすることもできる。

 近代西洋文明では情報通信技術の制約から、従業員が共同作業をするためには、一カ所に集まらざるを得なかった。また都市に集中した消費者に販売やサービスを提供することで、大量生産、大量輸送、大量販売の効率を追求してきた。

 新しい情報通信技術、自動運転技術などにより、こうした近代西洋文明の制約は相当程度、取り払われる。すなわち従来の都市でしか受けられなかった教育、医療、娯楽、行政、金融などのサービスが、地方でも同様に受けられるようになる。

 となれば、生活費や住居費の安い地方で暮らしながら、都会の魅力も十分に味わうと言うライフスタイルが可能となる。これにより、従来の都市の過密化、地方の過疎化を大きく改善できるようになる。そして、多くの人々が地方の恵まれた自然の中で、地元の新鮮な農産物・水産物をいただきながら暮らすという、自然と調和した生き方が実現できる。

 わが国の自然は多様化分散化しているのが特徴であり、その中で人間も分散化して住むことが、自然と調和した生き方となる。近代西洋文明は、自然を無視して発展してきたものであった。人口の地方分散化により、自然との調和をもう一度回復すべき時である。

 また地方の広い住居での祖父母との3世代居住により、子供を産み育てやすくなると言う効果もある。これにより都会では経済的に子供を産みたくても産めなかった人々が、子供を産み育ててることができるようになる。これが人口減少のスピードを緩め、その対応により時間をかけることができるようになる。


■8.日本人のダイナミックな適応力

 弊誌710号「日本を作った人口の波」[a]で述べたように、縄文時代以来、日本人は環境変化や技術進歩に対応しつつ、4つの人口の波を乗り越えてきた。

 直近では「江戸の平和」のもとで、新田開発と全国の流通発展により、江戸中期には3千万人に達した。しかし稲作が北限に達したところで100年間の小氷河期を迎え、宝暦(1753-63年)、天明(1782-87年)、天保(1833-36年)の凶作と飢饉を迎えた。

 開国後は、近代西洋文明を急速に吸収しつつ、経済大国を築いた。人口は急速に伸びたが、同時に世界トップクラスの長寿社会を実現したのは、大きな成果であった。日本人はそれだけのダイナミックな適応力を持っているのである。

 その適応力を再度発揮して少子化と技術革新をテコに、自然環境に適した持続可能な「和の文明」を築くことができれば、人口爆発と自然破壊に直面する人類全体への良きお手本となるだろう。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

a. JOG(710) 日本を作った人口の波
 我が国は4つの波を乗り越えて、ダイナミックに発展してきた。
http://blog.jog-net.jp/201108/article_1.html

b. JOG(697) 日本はすでに農業大国
 日本の農業生産額は世界5位。「高齢化する零細農家」は「農業版自虐史観」。
http://blog.jog-net.jp/201105/article_2.html

c. JOG(1129) 「ローカル経済圏」の復興が「和の国」を支える
 雇用で8割を占める「ローカル経済圏」が活性化すれば、明るい明日の日本が創れる。
http://blog.jog-net.jp/201909/article_1.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・河合雅司『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』★★、講談社現代新書(Kindle版)、H29
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN//japanontheg01-22/

・吉川洋『人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長』★★★、中公新書(Kindle版)、H28
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B072JTH3RT/japanontheg01-22/

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