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zoom RSS No.1052 公民教科書読み比べ(2):人を支える家族と郷土

<<   作成日時 : 2018/03/04 07:09   >>

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 我々は家族と郷土によって精神的にも支えられている。

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■1.客観的な解説書を読んでるようで、心に響くものがない

 東京書籍版(東書)公民教科書第1章第1節の「現代社会の特徴と私たち」では「グローバル化」「情報化」の次に「少子高齢化」の現象を説明している。

 次に「多様化する家族」の項で、共働き世帯や高齢者だけの世帯が増え、それらを支える「地域社会の役割が大切」と説く。その後の「安心社会を目指して」の項で、保育所や介護サービスの整備など「国や地方による支援の一層の充実が求められています」と書く。[1, p13]

 これはこれで現在の日本社会の動向を分かり易く纏め、そこでの課題を指摘した記述で納得できるものである。しかし客観的な解説書を読んでいるようで、心に響くものがない。

 中学生たちもこういう記述では、単なる知識を得るだけで、この社会の中で何を大切に生きているのか、自分としてはどうすべきなのか、というところまでは、考えないのではないか。


■2.「何が大切か、どう行動すべきか」を考えさせる

 東書の記述で、なぜ心に響くものがないのかは、育鵬社版(育鵬)と読み比べてみると、はっきりする。育鵬は少子高齢化、核家族化、介護の問題を述べた後で、次のように中学生たちに訴える。[2, p17]

__________
 また,子どもを産み育てることは人間にとって喜びであり,その営みこそが次の世代,社会をつくりあげていきます。しかし,そのためには,自分本位の生活習慣から,家族の一員としての生活習慣への転換も必要です。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ここでは「子供を産み育てること」の意義を説き、そのために中学生たちに「家族の一員としての生活習慣への転換」が必要である事を訴える。社会の現象や政治の課題を知識として中学生たちに詰め込むのではなく、何が大切か、どう行動すべきかを説いている。

 東書は「公民」を次のように定義していた。[1, p1]

__________
「公民」とは,「私(わたくし)」だけを中心にして社会を見たり考えたりする人間のことではありません。地域・日本・世界などの「公(おおやけ)」から広く社会を見つめ,社会的な問題を解決しながら,現在を生きる世代と将来を生きる世代の両方の幸福を実現する「持続可能な社会」の形成に参画できる人間を意味します。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「広く社会を見つめ」るためには、客観的な知識も必要だが、「社会的な問題を解決」できる人間を育てるためには、何が大切か、何をすべきか、自らの頭で考えさせることが必要だ。この点で知識のみを解く東書の記述は不十分である。


■3.「社会集団」を体験的に理解できるか

 東書は後の「家族と地域社会」の項で、それぞれについて、次のように説明している。[1, p24]

__________
 私たちは様々な社会集団の中で生活しています。家族は,私たちが最初に出会う最も身近な社会集団です。私たちは家族の中で安らぎを得,支え合い,成長し,社会生活の基本的なルールを身につけます。日本国憲法は,家族についての基本的な原則として,「個人の尊厳と両性の本質的平等」(第24条)を定めています。
 また,地域社会も,社会的なルールを身につけたり,暮らしを支え合ったりする大切な社会集団です。特に近年では,育児や介護,防災,安全,伝統文化の継承などにおける地域社会の役割が見直されています。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 これに対して、育鵬は「4.家族と郷土」と2ページの独立した節を設け、それぞれについて詳しく説明している。その内容が東書とはだいぶ異なる。まず東書と同様、「社会集団」の概念について以下のように説明する。[2, p18]

__________
 私たちは,さまざまな人たちと出会い,家族や学校,地域社会,企業,そして国家といった社会集団の中で生活し,支え合いながら成長していきます。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 東書の「私たちは様々な社会集団の中で生活しています」といきなり説明もなく「社会集団」の言葉を使う記述に比べれば、はるかに分かりやすい説明である。特にそれが「家族や学校,地域社会,企業,そして国家」と言う重層的な構造をなしていること、その中で「生活し,支え合いながら成長」していくこと。

 この二点の指摘によって、「社会集団」が単なる抽象的な概念ではなく、中学生にとっても身近に体験的に感じとれるものとなる。抽象的な知識だけでは階級闘争理論のような抽象的な思考しかできないが、体験的に理解しうる概念となって初めて、自分の生き方を支え、変えていく力のある思索ができる。


■4.精神的存在という人間観

 育鵬は、この「社会集団」の説明の後で、家族を取り上げる。[1, p18]

__________
 その中でも家族は,愛情と信頼で結ばれた,最も身近な共同体で,社会の基礎となる単位です。私たちは,家族の中で育てられ,人格をはぐくみ,慣習や文化を受けつぎ,社会で生きるためのルールやマナーを身につけていきます。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 これと前節で紹介した東書の「家族」の説明を比べてみよう。

__________
私たちは家族の中で安らぎを得,支え合い,成長し,社会生活の基本的なルールを身につけます。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 概念的にはほぼ同様だが、東書が「成長し」と一言で述べている内容を、育鵬は「家族の中で育てられ,人格をはぐくみ,慣習や文化を受けつぎ」と説明している。単に肉体的な成長のみならず、「人格」や「慣習や文化」など精神的な成長に触れていることは重要である。

 また「社会生活の基本的なルール」のみならず、「マナー」も社会集団の中で生きていくための必要不可欠な文化的要素である。マナーを身につけるには、他者への思いやりが不可欠だからだ。育鵬の記述からは精神的存在としての人間観が窺われる。

画像
[2, p19]


■5.3世代同・近居が実現する幸せ家族

 育鵬は、家族の説明をさらに次のように続ける。[1, p18]

__________
やがて私たちは新しい家族をつくり,今度は私たちを育ててくれた年老いた親を支え,介護をすることも大切な役割になります。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 この「世代のリレー」という視点も、家族を考える上で大切な要素である。東書は「国や地方による支援の一層の充実が求められています」と、公的支援の必要性を述べるが、それはあくまで「年老いた親を支え,介護をする」という家族の役割を補完するものである。

 家族の説明の最後で、育鵬は次のような指摘をしている。[1, p18]

__________
また,祖父母の育児支援が得られやすい,祖父母・親・子の三世代の同居や近居の価値も見直されつつあります。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 三世代同近居は、子供が小さいうちには祖父母の育児支援を受けられ、子が成長した後は祖父母の介護を助けえt貰うこともできる。そのような三世代の支え合いにこそ、家族の安らぎと幸せがある。

 ちなみに拙著『世界が賞賛する 日本の教育』[a]では、「学力・体力トップクラスー福井県の子育てに学ぶ」の章で、あまり塾に通わない福井県の子供たちがなぜ学力トップレベルなのかを論じた。その秘密の一つは他県よりもはるかに多い宿題を、家庭で母親や祖母に見守られながら、こなしていることであった。

 福井県は人口100人あたりの3世代同居人数が28.04人と都道府県別では第2位であり[3]、育児も祖父母世代に助けられていることが推測される。

 同時に健康寿命の県別ランキングでも、男性は6位、女性は9位と上位にある。3世代同居で子供はしっかり育ち、祖父母は健康に暮らすという幸せな家族生活を実現しているようだ。公民ではこのような事実も教えて、中学生たちに幸せな家族のあり方を考えさせることも大切ではないか。

 東書のように、いきなり保育所や介護サービスの整備など「国や地方による支援の一層の充実が求められています」では、福祉を国や地方に要求するだけの人間が育ってしまう。国民みなが国に頼ろうとする社会主義では国が財政的にもたない事は、かつてのソ連やイギリスの失敗が実証している。


■6.郷土か、地域社会か

 さらに地域についても、育鵬はその重要性を次のように指摘する。[2, p19]

__________
自分が生まれ育った土地のことを郷土といいます。郷土は自己の形成に大きな役割をはたすとともに,一生にわたって大きな精神的な支えとなるものです。私たちは郷土の人々や生活,文化,伝統に親しみ,それを大切にすることをとおして,郷土愛をはぐくんでいきます。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 これを東書の次の一文と比較してみれば、その違いは明白である。[1, p24]

__________
また,地域社会も,社会的なルールを身につけたり,暮らしを支え合ったりする大切な社会集団です。特に近年では,育児や介護,防災。安全,伝統文化の継承などにおける地域社会の役割が見直されています。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「地域社会」と言うと、たまたま現在自分が住んでいる地域を指すのみだが、「郷土」と言うと精神的なつながりが強調される。「精神的な支え」「郷土愛」などの表現がこれにあたる。これに比べれば東書の表現は、地域社会の「育児や介護,防災,安全,伝統文化の継承」などの役割面が重視されている。

 しかし、これらの地域社会の役割にしても、住民の郷土愛があって初めて血の通ったものとなる。郷土愛なき地域社会では、社会主義国の一つの管理単位のようになってしまう。


■7.ベッドタウン化した知識社会

 実は育鵬でも、「地域社会」について次のような記述をしている。[2, p19]

__________
地域社会の変化 現代人の生活の範囲は,これまでと比較にならないほど拡大しています。それとともに,かつてあった地域社会の人間的なつながりはうすくなっているのが現状です。
 この背景には「職」と「住」の分離が進み,地域社会がベッドタウン化したこと,情報空間の拡大によって近所の住民が必ずしも身近な存在であるとは限らなくなったこと,また,地域よりも個人の生活を重視する傾向が強くなっていることなどがあると考えられます。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 このように、「職」と「住」の分離などによって郷土愛が失われ、ベッドタウン化した地域社会となってしまったという指摘は説得性がある。この傾向からいかに郷土愛を回復させていくかが、現代日本の大きな課題の一つである。


■8.日本人の血の通った言葉を通じて考える

 郷土愛の大切さについて、育鵬は次のように説く。[2, p19]

__________
 2011(平成23)年3月11日におこった東日本大震災で,私たちはあらためて郷土の大切さを知ることになりました。自分や家族が安心して生活できる安全な地域社会をつくるためには,地域の人々との交流が欠かせません。また,高齢者が増えている現在,地域の医療に関する問題も多く見受けられます。
 私たちが地域のコミュニティーを維持していくためには,各自が郷土の一員として発展に貢献していくという公共の精神をもつことが重要となります。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「公共の精神」とは、ギリシャ・ローマで生じ西欧で発展したもので、日本語の文脈ではまだまだ外来語のニュアンスが強い。しかし「郷土」という日本の伝統的な言葉を介すれば、そこに我々が体感できるものが通ってくる。

 例えば村の近くの里山を共用して薪などを拾う入会地(いりあいち)、下町では井戸を共同で使って、その周りでおかみさんたちがおしゃべりをする井戸端会議、こういう伝統的な光景から郷土を思い浮かべ、その郷土愛が「公共の精神」につながると考えれば、この言葉も日本人の血の通ったものとなる。

 東書の教える家族や地域社会は、知識的な次元にとどまり、しかも古めかしい社会主義臭がする。これでは頭でっかちの左翼インテリが育つだけだろう。育鵬のように中学生が体感できる言葉を通じて家族や地域社会を考えさせることで、初めて現代社会の課題に挑戦していける国民に育つのではないか。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

a. 伊勢雅臣『世界が称賛する 日本の教育』、育鵬社、H29
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■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 『新編新しい社会公民 [平成28年度採用]』、東京書籍、H27
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4487122333/japanontheg01-22/

2. 『新編新しいみんなの公民 [平成28年度採用] 』、育鵬社、H27
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4905382483/japanontheg01-22/

3.「都道府県別統計とランキングで見る県民性 三世代世帯人数」
http://todo-ran.com/t/kiji/16414

4.「最新】47都道府県の健康寿命ランキング」
https://womanslabo.com/2016120-1


■伊勢雅臣『世界が称賛する 日本の教育』に寄せられたアマゾン・カスタマー・レビュー 計34件、5つ星のうち4.4

■★★★★☆本意な価値あるものを日本の教育要素に見出す美しい試み(afpeaceさん)

 単に戦後を否定せず、単に過去を賛美せず、不本意なものの汚れを取り除きながら、本意な価値あるものを日本の教育の在り方のさまざまな要素の中に見出そうとする大変美しい試みであると思います。

■★★★★★一冊で何冊分かの価値あり(カメさん)

 日本の伝統的な教育に関する本を紹介しつつ著者の持論を展開していくスタイルであるが、それぞれの本のエッセンスの部分を抽出してあるので、一冊で、何冊も読んだ気になり、嬉しい。
 著者は外国で活躍してきたビジネスマンだが、なぜ教育に関心を持つようになったかがよくわかる。この国の行く末を真に考えていくと、教育のありように行きつくのは当然のことなのかも知れない。
__________
伊勢雅臣『世界が称賛する 日本の教育』、育鵬社、H29
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4594077765/japanontheg01-22/
アマゾン「日本論」カテゴリー 1位(8/3調べ)、総合41位
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