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zoom RSS Wing(2696) 環境原理主義者はどこが間違っているのか?

<<   作成日時 : 2017/07/17 07:40   >>

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 技術の限界やリスクだけを過大視して、そのメリットには目もくれず、「そんな技術はやめて自然に還れ」という環境原理主義者たちの姿勢では、人類の幸福も増進できない。

■■ 転送歓迎 ■■ No.2696 ■■ H29.07.17 ■■ 8,103部■■


 今週のJOG(1015)「マラリアと戦う日本の蚊帳」では、住友化学のオリセットネットを紹介したが、この商品については批判がある事を一部の読者からお知らせいただいた。

 以前から、こうした批判がある事は知っていたが、とるに足らぬ議論と切り捨てて、紙面では言及しなかった。ただ、好適な批判記事を教えて貰ったので、これを敵役として環境原理主義のどこが間違っているのか、考えてみたい。

 その批判記事は、雑誌『選択』2013年7月号に掲載された「住友化学『人道ビジネス』の正体 アフリカを汚染する危険な『農薬蚊帳』」である。
https://www.sentaku.co.jp/articles/view/12857


■1.「私利私欲の塊のような三流企業が、、、」

 まず、この記事には署名がないので、誰が書いたか分からないようになっている。しかし、最後の一文を読めば、どんな人物がこれを書いているのか、想像がつく。

__________
 アフリカの環境破壊も、子どもたちの健康被害も一顧だにしない、私利私欲の塊のような三流企業が、そもそも経団連会長社にふさわしくなかったのは、いまや自明のこと。

 米倉弘昌会長の倫理なき経営が、日本を貶めていく。
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「文は人なり」と言う。こういう品のない誹謗中傷だけでも、人格低劣な人物であることが分かる。

 それはともかく、この人物の言い分は環境原理主義そのもので、これを批判的に読めば、世の中の環境原理主義者の陥る過ちが良く分かる。
 

■2.「住友化学としてはとんだ誤算である」?

 まず、この記事は、農薬蚊帳の需要が減っていることを指摘する。

__________
 ところが、世界の農薬蚊帳の配布総数は一〇年に一億四千五百万張りに達したあと減少に転じ、昨年は六千六百万張りに減ってしまった。住友化学としてはとんだ誤算である。
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 減った理由について、著者は「リーマン・ショック後の世界不況の影響で、先進国から国際機関への資金拠出は減少傾向にある。主要国は財政削減を迫られ、マラリア対策どころではなくなっている」と述べている。

 世界不況の影響で先進国からの資金拠出が減っているから蚊帳の配布枚数が減っただけで、オリセットネットの性能や安全性とは関係ない話である。その関係ない話をわざわざ持ち出して、「住友化学としてはとんだ誤算である」と冷笑する。何か、住友化学に恨みでもあるのだろうか?

 それにしても、減少したと言え、六千六百万張りとは大変な数量ではないか。二人で蚊帳一張りを使うとすれば1.3億人分。アフリカの人口は12億というから、1年間でアフリカの全人口の10%以上に蚊帳を供給しようというのだ。農薬蚊帳が効果もなく、大きな環境問題や健康被害を起こしていたら、誰がこれだけの数量を提供するだろうか。


■3.「効果と安全性への疑問の高まり」?

 次に、この筆者はオリセットネットの「効果と安全性への疑問の高まり」を指摘する。

__________
 ザンジバルでは〇六年からオリセットネットの配布と殺虫剤の室内噴霧を大々的に実施した。当初はマラリアの患者・死亡者が大幅に減少し、マラリア対策の優等生と評価されていた。

 ところが一〇〜一一年にザンジバル当局が調査したところ、蚊帳や噴霧に使われる殺虫剤に蚊が耐性を強め、効かなくなった。しかも、五年は使えるとされたオリセットネットの三分の二が破損しており、三年ももたないことが判明した。資金面などで恵まれているザンジバルでさえも「現行の殺虫剤依存の対策では、マラリア撲滅は困難」というのが結論である。
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 この文章は巧妙で、「当初はマラリアの患者・死亡者が大幅に減少」と効果を認めつつ、そのあと蚊が耐性を持ったとか、オリセットネットが3年も持たないとか、ケチをつけながら、その後の患者・死亡者数がどうなったのか語らない。

 本当にほとんどの蚊が耐性を持ち、ほとんどのオリセットネットが3年で破れてしまったのなら、患者・死亡者がリバウンドするはずだ。それを言わないのは、そんな現象が事実として起きていないからだろう。

 結論として「現行の殺虫剤依存の対策では、マラリア撲滅は困難」というからには、マラリアは大きく減ったが、撲滅には至っていない、ということだろう。

 そもそも蚊帳でマラリアの「撲滅」を図れるはずもない。弊誌記事でも引用したように、カーチス博士は「蚊帳に殺虫剤を染みこませておけば、蚊の絶対数を減らしていける」と言ったので、「絶滅できる」などとは言っていない。蚊の絶対数を減らせば、マラリア患者も減り、それだけ多くの人々を助けることができる、という考えである。

 また、蚊が耐性を持ったとか、3年で蚊帳が破れたというのは、どんな技術でも持つ限界である。車が増えすぎで渋滞だらけになったとか、5千キロ走れるはずのタイヤが悪路ばかり走っていて3千キロしか持たなかった、というのと同様である。

 こういう現在の技術の限界を認識して、その改良を図っていくのが、技術者の仕事である。この筆者の言い分では、渋滞を起こすような車はやめてしまえ、とか、どんな悪路でも5千キロ持たないタイヤはまがい物だ、というのと同じである。悪口だけ言って、実際に車やタイヤが無くなったら、どうなるかは考えない。


■4.「健康を脅かしている可能性が極めて高い」?

 この筆者は安全性を疑う根拠について、こう言い立てる。

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「ピレスロイド系殺虫剤は人体に最も害が少ない農薬」という住友化学の説明が強く疑問視されていることは、本誌昨年八月号の「企業研究・住友化学」で紹介した。たとえば、妊娠したマウスにペルメトリンを投与したところ、子マウスの脳血管の発達が異常になり、生後の知的能力と運動能力に障害が出ることがあるとの研究結果が発表されている。

 子どもたちをマラリアから守るための農薬蚊帳が、実はその健康を脅かしている可能性が極めて高いという恐ろしい話だ。
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 そもそも殺虫剤なのだから、生物に何らかの悪影響があるのは当然だろう。住友化学の「ピレスロイド系殺虫剤は人体に最も害が少ない農薬」なる説明で、「被害が少ない」という言い方には、技術者としての良識が感じられる。「被害がない」とは言っていない。マウスで障害が出たから危険だというなら、そもそも虫を殺すような殺虫剤だから危険だとも言えるはずだ。

 この筆者は完全に人体に安全だと保障できない限り、その薬剤を使ってはいけない、とでも考えているようである。それなら、都市ガスは有毒な一酸化炭素を出すから使用禁止にすべきだ、ということになる。現実社会ではリスクを最小限にする方法をとり、メリットの方をはるかに広範囲に享受できるから、その技術が使われているのである。

 少しでもリスクがあったら、その技術は使うべきでない、というなら、電気すら感電死や漏電火災のリスクがあるから使えなくなってしまうだろう。リスクにばかり着目して、メリットとのトレードオフを考えないのが、環境原理主義者の過ちである。

 そもそも農薬蚊帳の使用で、マラリアの死者が100万人規模から60万人規模と年間40万人もの命が救われているのである。しかも、さらに六千六百万張りもの蚊帳が購入されたということは、そのリスクに比べて、はるかに大きなメリットがあると考えられているからだろう。

 オリセットネットが導入されてから、すでに20年近く経つ。実際に通常の使用で、こどもたちの「健康を脅かしている可能性が極めて高い」というなら、十分な事実データが手に入るはずだ。それも示さずに、マウス実験だけでは説得力はほとんどない。


■5.「袋でさえ危険であるなら、農薬蚊帳自体はどうなのか」?

 その危険性の根拠として、この筆者は「内部文書」を取り上げる。

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 農薬蚊帳の袋や梱包材の廃棄に関するこのWHO文書は「袋などには農薬が付着していて人体や環境を汚染する可能性があるので、厳重に処分する必要がある」とし、袋の再利用の禁止や高温焼却炉での処理などを求め、廃棄する作業員は防護用具を装着するよう指示している。

 袋でさえ危険であるなら、農薬蚊帳自体はどうなのか。農薬蚊帳を妊婦や子どもが身近で毎晩使って本当に安全性に問題はないのか。そうした疑問にWHOも住友化学も、一切答えない。
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「袋でさえ危険であるなら、農薬蚊帳自体はどうなのか」という言い分に、合理的な思考のできない人だな、という事がすぐ分かる。袋の方が蚊帳よりも危険なことは十二分にありうるからである。

 たとえば、オリセットネットを入れた袋が、消費地に届けられるまで何ヶ月もかかる、ということは十分にありうる。密閉した袋の中に、徐々に殺虫剤が染み出すオリセットネットを何ヶ月も入れておけば、殺虫剤は高濃度で袋に付着するだろう。

 それに対して、オリセットネットが通常使用されれば、染み出した殺虫剤は空気中に拡散してしまう。したがって、使用されている蚊帳の方が、それを入れていた袋よりもはるかに安全ということは、十分ありうるのである。

「そうした疑問にWHOも住友化学も、一切答えない」と言うが、この程度の合理的思考ができず、悪意ある環境原理主義者など応対する暇はWHOも住友化学にもないだろう。そんな時間があったら、一人でも多くのマラリア患者を救って貰いたい。


■6.代替案のコスト、リスク、パフォーマンスを評価すべき

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 以上のような実態を踏まえて関係者からは、WHOなどによる国際戦略の抜本的転換を求める声が出始めている。農薬を使わない普通蚊帳の普及、蚊の発生そのものを抑える環境整備、子どもたちの栄養改善など、地元民に真に役立つ内容にすべきとの意見だ。
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 技術者として、代替案を考えるのは当然である。しかし、代替案の評価には、コストとリスク、パフォーマンスの比較が伴わなければならない。

「農薬を使わない普通蚊帳の普及」ではマラリア撲滅どころか、「蚊の絶対数を減ら」す可能性もゼロである。オリセットネットをやめて通常蚊帳にしたら、犠牲者は増えこそすれ、さらに減る可能性はないだろう。

 オリセットネットの殺虫剤によるリスクはなくなるが、逆にマラリアのリスクは増える。あるかないか分からない殺虫剤リスクと、今も毎年60万人も死んでいるマラリアリスクとどちらをとるか、という事である。真っ当な技術者なら、殺虫剤リスクがもしあるとしたら、それをさらに減らしていく努力をするだろう。

「蚊の発生そのものを抑える環境整備」では下水溝や下水処理施設すら十分に整っていないアフリカ全土の環境整備には何十年も、何百兆円もかかるだろう。農薬蚊帳への援助すら減っている中で、その数百倍、数千倍の費用をどう調達するのか。

 代替案としての意味が分からないのは「子どもたちの栄養改善」である。それはそもそも別の取り組むべき問題だが、栄養改善されたらマラリアにかかっても死亡する率は減るという冷厳な思考なのだろうか。しかし、その場合でも後遺症が残る恐れがある。それとも栄養改善して、蚊にさされてもマラリアにはかからない特異体質を作る方法でもありうるのだろうか?

 殺虫剤リスクをことさら大きく取り上げて、オリセットネットをやめさせる事は、さらなる技術進歩の可能性を塞ぐことになる。その代わりに非現実的な対案を訴えて、現実のマラリア問題の解決の足を引っ張るだけである。

 すべての技術には限界と、リスク、コストがある。その限界を少しでも広げ、リスクとコストを下げていこうと、技術の開発改良に励むのが、真の技術者の道である。人類の文明はこうした技術者たちによって築かれてきた。

 ある技術の限界やリスクだけを過大視して、そのメリットには目もくれず、「そんな技術はやめて自然に還れ」という環境原理主義者たちの姿勢では、文明は進歩せず、人類の幸福も増進できないのである。

以上

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