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zoom RSS No.892 国際交渉の現場から

<<   作成日時 : 2015/03/22 08:00   >>

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「国際舞台において、日本人であることは、それだけで大きな強み」

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■1.名古屋議定書を巡る先進国と途上国の対立

「名古屋議定書 生物の多様性を守る出発点に」と題した読売新聞、平成22(2010)年10月31日付け社説は次のように述べる。

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 名古屋市で開かれていた生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)は、「名古屋議定書」などを採択して閉幕した。

 急速に損なわれている生物の多様性を守ることは、世界全体の課題である。だが、保全のあり方については、各国の利害が複雑に絡む。それを改めて浮き彫りにした会議だったと言えよう。

 その象徴が、名古屋議定書を巡る先進国と途上国の対立だ。

 先進国の企業は、途上国原産の動植物や微生物などの生物遺伝資源から、医薬品や食料品などを製造してきた。その利益を原産国に配分する基本的ルールを定めたのが名古屋議定書だ。

 途上国は、植民地時代にまでさかのぼって利益を還元するよう先進国に求めた。先進国から可能な限り多くの資金を引き出そうという途上国側の姿勢が際立ち、会議は決裂の可能性もあった。
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 決裂の可能性を土壇場で救い、歴史的な合意を築いたのが、「国際調整官」島田久仁彦氏だった。氏は「久仁彦」の一部をとって、海外では「Kuni」で通っているので、本稿でもそう呼ばせていただこう。


■2.「それはいい。喜んでやらせたい」

 COP10は平成22(2010)年10月18日から2週間にわたって開催された。しかし、先進国と途上国の利害の対立で、最初の1週間ですでに暗雲が立ちこめていた。各国の実務レベルの交渉官の議論では話がまとまりそうもない。

 そう考えたKuniは、のちに「名古屋方式」と呼ばれる進め方の提案をした。それは大臣級の人に、いくつかの作業部会で、ファシリテーターというまとめ役を頼むということだった。

 各国の事務方のトップに「ファシリテーターだからといって、自分の意見を言ってはいけないということじゃない。でも意見のまとめもしてほしいのだ。おたくの大臣に引き受けてもらえるかどうか、本国に聞いてみてよ」と頼んでいった。「それはいい。喜んでやらせたい」と返事は、ほぼ100%「イエス」だった。

 依頼した大臣級の中には、今までの国際会議などで、すでにKuniが親しくしていた人も少なくなかった。非公式に彼らに直接コンタクトをとり、「○○大臣、お願いします」と頼み込んだ。

 大臣級をファシリテーターに据えることのメリットは、次の一言が出ることだった。「私も国を代表して言いたいことはあるが、ファシリテーターの任を負っているから、この点はあえて我慢をして呑み込もう。なので、あなたもそこは理解してくれ」

 大臣級がファシリテーターをつとめる事で、まとめられなければ自分の手落ちになるし、うまくまとめれば自分の手柄となる、そういう当事者意識を持たせたのだった。


■3.「Kuniに任せれば大丈夫」

 それでも水面下では、途上国原産の動植物を使って先進国が医薬品を開発した場合、その利益をどう配分するか、という問題では、各国の利害がぶつかりあって、議論が収拾しなかった。特にキューバ、ボリビア、ベネズエラ、ニカラグアといった中南米諸国が激しく反論を主張していた。

 島田氏は、こう持ちかけた。

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 あなたは反対しないと立場がない。私は決めないとならない。落としどころは、反対していたことは議事録には残したうえで、イエスと言っていただくことだと思います。
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 代表たちの頑なな表情が少し和らいだ。彼らも母国に向けて「私はこれだけ頑張ったんだ」という証しが必要なのだ。

 さらに態度の硬かったベネズエラに対しては、同国の外務省で国連交渉の責任者となっていたクラウディア・サレルノ・カルデラ女史が友人だったので、Kuniは電話で事情を話した。

 すると彼女はCOP10の代表たちに「Kuniに任せれば大丈夫。彼は私たちの立場をきちんと理解したうえでシナリオを書く人だから」と太鼓判を押してくれた。


■4.「日本の環境外交史に刻まれる奇跡」

 最終日の10月29日午後4時半、COP10の締めくくりとなる最後の全体会合が始まった。しかし、資金動員計画を議論する第二作業部会がまだまとまっていないことが判明した。議長の松本龍環境大臣のメンツは丸つぶれとなり、議場は混乱に包まれた。

 午後6時には次のCOP11の議長国となるインド政府主催のレセプションが予定されていたので、それを理由に全体会議をいったん中断した。

 島田氏は捨て身になって、環境省で氏より上の立場の人たちに次々と指示を出した。「あなた、すぐ事務局長に会って、まとめてきてください」「あなたは私と一緒にシナリオを書く」等々。

 格下の島田氏に突然命令されて、いい気持ちはしなかったろう。しかし環境省地球環境審議官の南川秀樹氏は島田氏を信頼し、自分から率先して、彼の言うとおり動くことで、周囲の人にも「この人が動いているのだから私たちもやらねば」という気にさせた。

 全体会合は午後11時過ぎに再開された。そこから一つ一つ合意を重ね、最後に松本議長が「採択に異議はありません」と会場に問いかけた。異議の声はなく、議長が「異議なしと認め、採択します」と言って木槌を叩いた瞬間、全員が立ち上がって、大きな歓声と拍手が起こった。

画像
木槌を振り上げる松本議長と拍手するKuni


 Kuniは語る。

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 期間中、さまざまなメディアに合意は困難と言われ、実際に交渉に参加していた各国の間にも諦めムードが漂っていたなか、三つの重要議題すべてに合意できたCOP10は、日本の環境外交史に刻まれる奇跡といっても言い過ぎではありません。[1,p167]
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■5.「交渉においては<勝つこと>を目標にしてはいけない」

「『交渉』とは、自分にとって最も利のある結果を勝ち獲ることだとお思いの方は多いと思います」とKuniは問いかける。

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 ただ、精神的にも身体的にもハードな現場を渡り歩き、思い出すといまでも眠れなくなるような手痛い失敗をして、ようやく私が学んだのは、「交渉においては<勝つこと>を目標にしてはいけない」ということです。
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 前章までのCOP10の短い紹介でも、島田氏と日本政府の姿勢は「いかに日本政府が勝つか」ということではなく、「いかに国際的な合意を築くか」だった事は見てとれる。その理由は簡単だ。

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 ・・・さまざまな合意の中でも、結局長続きするのは、当事者同士が納得している合意だけです。いくら力で押さえつけても、その下に不満がくすぶっていれば、争いはいつか必ず再燃します。どんな交渉でも、表面の勝ちばかり追っていると、その場はよくてもいつか必ずしっぺ返しががきます。[1,p14]
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「大事なことは、互いに『一緒に結果を導き出した』という達成感を共有することです」とは、大臣たちにファシリテーターを頼んだり、反対意見にもじっくり耳を傾けた所からも窺える。そして、最後に全員が立ち上がって拍手と歓声が起こった光景こそ、「一緒に結果を出した」達成感がもたらしたものだ。


■6.「こいつは自分たちと同じ目線でものを考えてくれる」

「そのためには、一にも二にも、信頼関係の醸成と構築が重要です」とKuniは言う。頑(かたく)ななベネズエラ代表に、同国の国際交渉責任者カルデラ女史から、「Kuniに任せれば大丈夫」という一言をかけてもらって話を進めたのは、その最たるものだ。

 また外国の大臣たちにファシリテータを引き受けて貰ったり、日本側でも最後の晩に、南川秀樹・審議官が率先して指示通り動いてくれたのも、Kuniへの信頼があったればこそだ。

 Kuniはかつて、国連の紛争調停官として、コソボや東ティモールなどでの紛争調停にあたった。その際、国連からスーツ姿の人間がやってきて、いきなり「さあ、話し合いましょう」と言っても、彼らはまず耳を貸さない。

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 まずは、「こいつとは話ができる」と思ってもらわなくてはいけない。ですから、「自分は相手と同じ目線に立っている」ということを態度をもって示します。

 たとえば相手が治安維持などの任務にあたっている兵士であれば、駐屯地で一緒に地べたに座り、軍隊のおいしいとはいえないランチを一緒に食べて、彼らの話にひたすら耳を傾けます。

「どういった問題を感じているのか」「どのような思いを抱いて任務に就いているのか」「家族や愛する人たちへの想い」などをお互いに語り、時々一緒に泣いたりします。

 そういった行動を通じて、「こいつは自分たちと同じ目線でものを考えてくれる」「自分たちの話を聞いて、一緒に解決策を考えてくれる」という印象を刻むことができるのです。[1,p57]
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 争っている双方から、「こいつなら一緒に調停を考えてくれる」という信頼を勝ち取ってこそ、戦闘停止に向けた真剣な話し合いが始まる。こうしたアプローチで、今まで何人もの調停官が匙を投げた案件をまとめあげたので、Kuniは現地や国連の人々から「最後の調停官」とあだ名されるほどになった。


■7.「顔が見えない」ことで尊敬されている日本の外交官

 よく日本の外交は顔が見えない、と言われる。国際外交の場で、日本代表の顔が見えないのは、日本人の外交下手の証拠などと言う人がいる。しかし、Kuniの意見は反対である。

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 メディアではよく、「日本の外交は顔が見えない。自己主張が足りないのではないか?」などと批判しているのを見受けますが、日本の交渉官たちは、決して自己主張が弱いわけでも、ましてや能力がないのでもないということは、ここに断言しておきます。

 むしろ、他国の交渉官にはなかなかできないことを彼らはやってのけています。それは、あえて「自分」を消し、チーム全体の成果を挙げることに徹した外交ができるということです。[1,p187]
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 こうした日本の交渉官の姿勢は、世界中で尊敬されている、とKuniは言う。

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 日本の外交を私が高く評価する理由は、いい意味で「顔が見えない」ことにあります。要するにスタンドプレーがないことです。

 見えないところで大事な根回しやキーとなるアイデアの提出を、それぞれの交渉官がしっかりと担っています。誰かが目立とうと手柄を独り占めするような姿を私はついぞ見たことがありません。日本のそうしたチームプレーは世界中で尊敬されていますし、日本の外交の大事なクオリティーの素ともなっていると私は考えます。[1,p187]
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「顔が見えない」とは、「自分」を消して、チーム全体の成果を目指すことだ。そういう人間であってこそ、交渉相手の信頼も勝ち得る事ができるし、その姿勢は世界中で尊敬されるのである。


■8.「国際舞台において、日本人であることは、それだけで大きな強み」

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 ・・・実際に世界各国での交渉を手がけてきて、明言できることがあります。

 それは、国際舞台において、日本人であることは、それだけで大きな強みとなっているということです。日本人は諸外国から尊敬されています。「自分が、自分が」と主張する欧米タイプではなく、自分は退いて、相手を立てる。傍(はた)から見れば、もっと主張してもいいのにと思うほどだけれど、そうしない。穏やかな印象にとどめておく。

 そうした振る舞いから生まれる美徳は、日本の外交、そして日本のビジネスの長所として捉えるべきでしょう。

 ゆえに、外交もビジネスも、いままでどおりのスタンスでやればいいと私は考えます。巷(ちまた)で言われるように欧米化する必要など、絶対にありません。`[1,p190]
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 日本人である事を忘れ、「国際人」を気取って流暢な外国語で「俺が俺が」と自己PRをする。そういう人は欧米人のニセモノに過ぎない。信頼も尊敬もされないから、成果も出せない。

 相手に信頼されるよう努力し、またスタンドプレーを排して、愚直に相手と一緒の成果を目指す。こうした日本社会で美徳とされる姿勢は、そのまま国際社会でも信頼され尊敬される。

 何のことはない。国際社会で活躍できる「国際派日本人」となるためには、まずは「立派な日本人たれ」という事である。そういう立派な日本人たちがリードして人類全体のためにまとめあげたのが、名古屋議定書なのである。

(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(502) 気は優しくて力持ち 〜自衛隊海外支援奮闘記
 「サマワの人々は彼らが『古きニッポン』の子孫として、愛情と倫理に溢れた人々であることを見出した。」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h19/jog502.html

b. Wing(1214) 信頼される国家として「日本ブランド」の確立を
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/wing1214.html

c. JOG(457) 外交の極意は正心誠意にあり
 誠意に基づく気骨ある外交が、国家の品格をもたらす
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog457.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 島田久仁彦『交渉プロフェッショナル』★★★、NHK出版新書、H25
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4140884177/japanontheg01-22/


■おたより

■昭博さんより

 今回の「国際交渉の現場から」、感動致しました。

 老若男女に関わらず、素晴らしい日本人たちが身の回りに沢山居られることを見聞きするたびに、日本人としてこの国に生まれたことの幸せを実感している今日この頃です。

 今回の記事を読みながら、頭に浮かんだのは現役時代に受けたディベートの実践訓練でした。いつも後味の悪さを感じ、不愉快な思いに浸っておりましたが、今回の記事で勝ち負けではなく、相互の信頼関係構築が第一と納得した次第です。

 相手の立場を慮り、双方が納得できる中庸の結論を得るのが交渉の本意であることを再確認でき、商いにおける「三方よし」の精神や「根回し」といった日本人の交わりが素晴らしいものであると革めて感じております。

 己の欲を程々にして利他の行動実践に努めなければなりませんね。

■編集長・伊勢雅臣より

 私も昔、ディベートを学んだことがありましたが、いまから考えると、底の浅い方法だったのですね。

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