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zoom RSS No.834 自立と自助の経済学 〜 澤上篤人氏の「金融の本領」

<<   作成日時 : 2014/02/02 06:29   >>

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「こんな世の中を子供たちや孫たちに残してやりたい」と願う将来方向で頑張っている企業を応援する。

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■1.沖縄に1兆円の資金を投下する方法

「なるほど!」と思わず、膝を打った記事に出くわした。

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 沖縄県の例をお話ししましょう。沖縄県には約130万人の県民がいて、4兆6000億円くらい預貯金があります。その預貯金のほとんどが、東京に行ってしまっています。大企業に融資されたり、国庫に入ったりして。その一方で、一生懸命に陳情して経済特区をつくり、本土の企業を誘致するわけです。

だから、「4兆6千億円もある預貯金のうち1兆円だけでも直接に沖縄経済に回してやれば、沖縄の経済はいくらでも良くなりますよ」と、沖縄の人たちに訴えてきました。[1]
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 自分のお金を銀行預金に預けたり、国債を買ったりしたのでは、どう使われるかは、まったく判らない。そのお金のほとんどが東京に行ってしまう、という。

 逆に沖縄県民が地元経済を発展させようと、そのお金の20%を、沖縄で頑張る企業の株を買って応援したとすれば、1兆円もの資金が集まってくる。

 美しい海を生かした観光業も良いだろうし、海洋資源開発でもいい。いずれにせよ、1兆円もの投資がなされれば、沖縄経済は発展し、本土との往来も盛んになるだろう。そうしたら、中国マネーなど怖くもなんともない。


■2.「こんな世の中を子供たちや孫たちに残してやりたいものだ」

 上述の発言をしている澤上篤人さんは、40年以上も投資の世界に生きて「金融の歴史の生き証人」とも呼ばれる人だ。金融というと、ウォール街で売った買ったの博打のような稼業を想像してしまうが、そういう「金融は嫌いです」と澤上さんは言う。

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 たまたまこの世界で41年過ごしてきたけど、僕の長期投資は、製造業的な価値観に立っていて、そこから一歩も離れない。

世間の人が思い浮かべる金融って、お金を右から左へ動かすだけ。無機質で薄っぺらな仕事だよね。そもそも富を生んでないでしょう。金融バブル崩壊でもはっきりしたように、ひたすらお金を追いかける強欲さばかりで、人間性はどこかへ行ってしまっている。そんな世界は嫌いです。

− モノづくりこそ真っ当な仕事だ、と。

 そう、だから僕はいわゆる金融の世界に身を置きながらも、実際に富を築いていく製造業のお手伝いをしようとしてきた。実体経済にプラス貢献できるお金の回し方だけを考えてきたんだ。[2,p11]
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 しかし、製造業ならどんな企業でも良いということではない。

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 われわれは、「こんな社会に住みたいな」「こんな世の中を子供たちや孫たちに残してやりたいものだ」と願う将来方向で頑張っている企業を熱く、かつ人間的に応援していこうとする。いつの時代でも、将来を築いていくのは事業家の夢と情熱である。そういった事業家つまり企業を応援するのが長期投資である。[2,p93]
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■3.なぜ斜陽産業と言われた鉄鋼株を買ったのか?

 澤上さんの言う「長期投資」の実例を見てみよう。澤上さんは かつて日本の鉄鋼会社が韓国や中国の追い上げを受けて、大赤字となり、斜陽産業と言われていた時、鉄鋼株を大量に買った。その理由をこう語る。

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 製鉄所のシンボルとも言われる高炉は、どう考えても最高度に資本集約産業である。キーワードは技術力と資本力だ。その資本集約産業の最たるものが、どうして韓国や中国といった人件費の安い国に負けるのか。論理が矛盾している。

 何が悪いのだろう、、、と考えていくと、どうやら日本の鉄鋼会社はどこも終身雇用制度で、不要な社員を抱えすぎているようだ、ということにたどりついた。[2,p117]
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 巨大な高炉を動かすのに必要な人数は少ないが、本社にはたくさんの人がいる。間接部門の人件費コストが膨大で、それを引きずっている間は、韓国や中国に勝てない。でも、経営の方向が変わって、ムダを削っていったら、負ける理由はどこにもない。技術力は今でもダントツなのだから。

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 そこまで考えた上で、ずっと見ているうちに、鉄鋼メーカー各社は無駄なものを切る方向に少しづつ動き出したから、「これは買いだ」と判断した。

 鉄鋼は生活に必要に決まっている。しかも日本の技術力の粋でもある。経営者が根っこの問題に気がつき、動き出したら、応援したほうが良い。いや、応援させてもらいたい。[2,p118]
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 日本の鉄鋼メーカーのように、自動車の燃費も改善できる薄くて軽い鋼板を、しかも高いエネルギー効率で作れる企業を応援することで、自然環境と豊かさの両立する「子や孫に残してやりたい」社会に近づく。長期投資とは、そういう企業を見極め、応援する事なのだ。


■4.欧米にあった本来の投資銀行

 澤上さんは、こうした長期投資の在り方を、かつての欧米企業から学んだという。

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 ゴールドマンにしてもモルガンスタンレーにしても、1970年代の前半ごろは社員も100人から300人くらいの会社だったんだよ。・・・

 大変な頭脳集団だった。・・・ 世の中の行き先を、いつも世界レベルで読み込みながら、「これは面白い」と思ったものに、まだ海のものとも山のものともしれない段階から、ドーンとお金を放り込む。自己資本をぶ厚くして、信じられないほど大きなリスクを取ってね。本来の投資銀行ってそういうもの。

 だから、人数なんでそんなにいらない。とんでもなく優秀な人が20人から30人くらいいて、それを支えるスタッフが100人いれば十分。頭の切れ味で勝負するから、やっていることの一つひとつがかっこいい。見事なまでに先を読むんだよ。[2,p39]
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 日本では、ちょうど同じ姿勢で金融に取り組んだのが、銀行王・安田善次郎だ。安田善次郎は、金融とは一般大衆から預金を集め、それで国家公共に貢献する事業を支える縁の下の力持ちだとして、日本の近代的銀行制度を構築したのである。[a]


■5.マネーの暴走で失われた「投資の本分」

 しかし、80年代以降、金融の世界は急速に変わっていく。ひとつは巨額の年金マネーの登場だ。年金は人びとの老後を支える資金なので、毎年毎年の運用成績が大事だ。それを預けられた金融機関は、1年ごとの短期運用志向を強めていった。

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 年金という巨額資金の短期運用志向と、金融バブルの主役となっていったオプション取引やデリバティブ(金融派生商品)、そして証券化商品などの短期投資商品とは、きわめて相性がいい。両者がいろいろ複雑に絡みあって、実体経済から大きくかけ離れたマネーの暴走を許してしまった。

 ・・・世界中の金融機関が「マネーの時代」とやらに踊りまくって、ブレーキのない暴走列車に乗り込んだようなものだよ。

 そうした会社で働くほんの一握りの人間だけが何十億、何百億という収入を手にし、一方で、世界中の年金積立者の生活はめちゃくちゃに破壊された。こうなってくると「投資の本分」や「金融の本領」なんてどこかに吹っ飛んじゃうよね。[2,p49]
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 最近は、1秒間に1000回もコンピュータにトレーディングさせているんだよ。どこに「投資運用」があるんだい? あるのは、コンピュータ任せで、すべて計算ずくの「資金運用」だけじゃないか。[2,p42]
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■6.「一人ひとりが自立の意識で行動するだけで」

 世界中の金融機関が暴走列車に飛び乗った挙げ句に、金融バブル崩壊という大脱線事故を起こした。我も我もと短期利益を追い求める付和雷同が大事故を呼んだのである。

 付和雷同型の生き方の典型が、今までの「会社ベースの人生設計」だろう。一生懸命、受験勉強をして一流大学に行き、一流企業に就職し、住宅ローンを組んで家を買い、子供が巣立ったら、あとは定年を待つばかり。定年後は年金をベースに暮らす。

 それは世間から与えられた価値観に従っているだけで、自分はこう生きる、という自立した生き様はない。そうした人びとが自分の年金を盲目的に金融機関に預けたことから、マネーの暴走が始まった。

 さらにそういう付和雷同型の人びとの不安をマスコミが煽る。

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 僕はこれまでさんざん「XXショック」とやらを経験してきたし見てきたけど、一般の生活者が食えなくなることなんてなかった。

 石油ショックの時も、エネルギーコスト急騰で電力料金の50%値上げなど大騒ぎをしたが、人びとはなんとか切り抜けた。すこし生活水準が下がったぐらいで、「あれっ、結構やっていけるじゃん」と気づいただけの話だ。

 もう、無機質な数字に振りまわされて不安になるのは止めにしよう。「20XX年に日本は〇〇円の赤字になる」なんて数字には、意味がない。

 そこには、無機質な数字が予測として発表されているだけ。生活者の誰もが持っている「貧しくなりたくない思い」や「なんとか自分だけでも、よくしていこう」という意欲やエネルギーはまったく反映されていない。

 一人ひとりが自立の意識で行動するだけで、こんな数字はすぐにひっくり返る。ひっくり返らなかったにしても、「別にどうしたの?」というだけの話だ。[2,p171]
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■7.自立した人の長期投資

 澤上氏の説く長期投資とは、この付和雷同とは対極の姿勢である。

 冒頭で、沖縄県民の預貯金が4兆6000億円くらいもあり、そのうちの1兆円でも地元の発展に役立つ事業に回れば、沖縄の経済はいくらでも良くなる、という澤上氏の主張を紹介した。一人ひとりが自分の資産を、とりあえず銀行の定期預金や国債の形で預けておこう、という付和雷同では、これは実現出来ない。

 自分のお金を地域振興に役立てようと思ったら、沖縄でどんな事業をしたら良いかを自分で考え、自分でそういう企業を探し、自分のお金を投資する。

 そうした自立した姿勢で投資すれば、儲かろうが損しようが、あくまで自分の責任である。失敗しても誰を恨む必要もない。

 澤上さんの主張する「長期投資」とは、そうした自立した国民を前提とする。逆に、わずかな資金でも、自分のお金をこうした「長期投資」の姿勢で生かしていこうとすれば、その姿勢が自立した精神を育ってていくだろう。


■8.自立と自助が元気を生む

 そんな自立と自助の精神が日本を元気にする、と澤上さんは説く。

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 いま不安な人が多いというのは、たとえてみれば世間知らずで苦労知らずのボンボンが多いということだ。国や社会から与えられることばかりに慣れきってしまい、会社に行けば給料が貰えると思っている。

 だが、本当はそうではない。「はじめから、なにもかもそろっているなんてあり得ない。ないから一つひとつ摘み取っていく。それが人生であり経済なんだ」ということに気づき、行動する人が出てこなければならない。

 自助の意思と意欲で行動すると、その人は必ず何かを掴み取る。それで自信もついてきて、彼はいつもご機嫌でニコニコできるようになる。

 そんな人を見れば、「あの人は何でいつも元気なんだろう」とまわりの人たちは刺激される。そして、「それじゃ私もやってみるか」と行動に移る。

 いつの世も、社会を動かすのはこの伝染だ。順々に「やってみようか」という人が出てきて、気がつけばみんなが動き出している。元気が伝染している。

「あれ、いつの間にこんな元気な人が増えたんだろう?」

 日本がこうなるのに、10年もあれば充分だろうと僕は踏んでいる。もともと経済的に地力のある国なんだ。人々が自立的になりさえすれば、大丈夫。[2,p155]
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 アベノミクスで急に景気がよくなってきたが、それを本当に国民全体の元気に結びつけるのは、国民一人ひとりの自立と自助なのである。
(文責:伊勢雅臣)


■リンク■

a. JOG(804) 縁の下の力持ち 〜 銀行業の元祖・安田善次郎
 銀行業界の元祖・安田善次郎は「陰徳」を積みながら、近代日本の発展を支えた。
http://blog.jog-net.jp/201306/article_6.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1.日経ビジネス、H24.4.9 「地域にお金が回るような長期投資を考えよう さわかみ投信・澤上会長を迎えて【2】」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120401/230441/

2. 澤上篤人『金融の本領』★★、中央経済社、H24
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4502698105/japanontheg01-22/


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