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zoom RSS No.675 海防人(うみさきもり)の戦い(上)

<<   作成日時 : 2010/11/21 04:17   >>

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北朝鮮の工作船は突如、海上保安庁の巡視船に向けて、銃弾を浴びせた。


■1.「日本の海で起こっている出来事を見てもらいたい」

 尖閣諸島での中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、そのビデオ画像が流出して、多くの国民が現場の様子を直接目にすることができた。

 ビデオを流出させた海上保安官は、弁護士を通じて、次のようなコメントを公表した。[1]

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 政治的主張や私利私欲に基づくものではありません。一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっている出来事を見てもらい、一人一人が考え判断し、行動して欲しかっただけです。
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 海は我が国を外国と結ぶ通路であると共に、外国の利害と直接ぶつかり合う場でもある。「日本の海で起こっている出来事を見てもらい」たいとは、そこで体を張って国家の安全と利益を守っている海上保安官たち皆の正直な気持ちであろう。

 海上自衛隊を含め、我が国の海を守る防人(さきもり)たちが、どのような思いで、どのように我々を護ってくれているのか、国民として、その実態を知っておく必要がある。

 今回の事件については、まだ事実が明らかになっていないが、類似の事件として、平成13(2001)年12月に起きた北朝鮮工作船事件がある。これについては、『平成海防論 国難は海からやってくる』[2]に関係者のインタビューを含め、多くの事実がまとまっているので、これを頼りに、我が海防人たちの戦いの現場を見てみたい。


■2.「こんな失敗を二度と繰り返してはならない」

 平成13(2001)年12月22日午前1時10分、年の瀬の深夜、人通りの絶えた東京・桜田門にある海上保安庁・運用司令室に、海上自衛隊からの緊急電が入った。

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 海上自衛隊のP−3C機が工作船らしき不審な船舶を一隻発見。現在、奄美大島から約230キロメートルの九州南西沖を西に向かって航行中。
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 この情報は、直ちに鹿児島に本部を置く第10管区海上保安部に伝えられた。同時に、日本の海を取り巻く全管区にも「直ちに警戒態勢に入るよう」指令が飛んだ。福岡海上保安部所属の巡視船「みずき」の堀井和也船長も、指令を受けた一人だった。[2,p164]

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 あの日は2泊3日の勤務明けで家に帰ってゆっくりくつろいでいたのです。すると「みずき」船内の当直から私の携帯電話に「不審船が出現しました。緊急出航です」という連絡が入ったのです。時間は夜中の1時50分頃でした。

 やたらと寒い夜で、雪もちらちら降っていたのを覚えています。その雪のなかを船まで6、7キロメートルの距離を自転車で急行したのを覚えています。間もなく乗組員全員がそろい、午前3時50分ごろには20ミリ砲の弾の装填も終え、すべての態勢を整えて出港しました。
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 2泊3日の勤務明けの直後にもかかわらず、真冬の深夜、雪のちらつく中を、自転車で駆けつける海上保安官の姿は貴い。

 ちなみに日本全国に68の保安部、保安署が置かれているが、そのなかには巡視船が1隻しかないところも少なくない。その場合は、乗組員たちは、いつ何が起きても、すぐに駆けつけて出航できるような態勢を整えていなければならない。休みで陸にあがった時も、遠出はできない。


■3.「もし本当なら何が何でも停船させてやるのだ」

 堀井船長は、その当時、不審船情報があふれ返っていたので「今回は本当かな?」と思う反面、「もし本当なら何が何でも停船させてやるのだ」と決心していた。2年前に起きた『能登半島不審船事案』で、不審船を取り逃がして、海上保安庁への批判が集中した経験があったからである。

 この事件では、日本漁船の名を偽装した2隻の不審船が、能登半島沖で発見され、海上自衛隊を含め、巡視艇15隻、航空機12機を向かわせる大捕り物となった。

 巡視船は威嚇射撃を敢行したが、不審船は少しも怯むことなく、高速で振り切ってしまった。35ノット(時速65キロ)という高速で走る不審船に、そんなスピードは出せない巡視艇はみるみる引き離されてしまった。

 また、海上自衛隊のP−3C機が荒海を高速で走る不審船の40メートル以内に、相手に当てないように8発ほど爆弾を投下する、という見事な腕を見せたが、正当防衛の場合以外、相手に「危害を与えてはならない」と法律で縛られた自衛隊には、それ以上のことはできなかった。

 不審船は、ゆうゆうと去っていった。海上保安庁には「何で撃沈しないんだ」という非難の電話が殺到した[a]。逆に、社会党の土井たか子党首(当時)は、「相手が発砲もしていないのに、威嚇射撃は尋常ではない」と非難した。

 こんな失敗を二度と繰り返してはならない、という気持ちは、海上保安庁の職員全体が共有していた。


■4.世界第6位の広大な海域を護る

 日本の海は広い。現場に最初に到着した巡視船「いなさ」(長崎海上保安部所属)が不審船を確認できたのは、すでにその日の昼過ぎ、不審船の第一報がもたらされた午前1時から実に11時間を要した。

 我が国の排他的経済水域(EEZ)と海岸線延長は、ともに世界第6位である。ある海保OBは、「現在の海上保安庁には1万2411人が在籍していますが、この人数で世界第6位を誇る広い海を守ること自体に無理があるのです」と言う。[2,p168]

 アメリカのコースト・ガードと比べても、日本の海保一人当たりが受け持っているEEZの面積は、アメリカの約6倍である。韓国のEEZの面積は我が国の約9分の1だが、それでも我が国と同規模の人員1万600人を抱えている。

 しかも我が国の周囲は、北朝鮮、中国、ロシアと係争を抱えた国に囲まれており、たとえば中国は我が国周辺で地球の27周分に相当する海洋調査を行うなど、ひっきりなしに日本の領海・EEZに入り込んでは、怪しい動きを繰り返している。そうした情報がもたらされるたびに、巡視船は現場に急行しなければならない。

 その日は悪天候で、波の高さは4メートルを超えていた。船が波に乗ると、3階建てのビルにのったような感覚であり、逆に波の谷間に入ると、3階から落下するような感覚を覚える。船の揺れも凄まじく、居室の本棚からはすべて本が落ちてしまう。テーブル上に開いた海図すら、しょっちゅうずり落ちてしまう有様だ。

 本庁からの「数時間前にだいたいこの辺りの海域にいた」という電話連絡だけを頼りに現場を目指す。本庁もジリジリして、30分も間を置かずに、「いまどのあたりだ?」「現場到着は何時になる?」と矢継ぎ早に電話が入る。いちいち受け答えしている余裕もないので、堀井船長は担当者の電話をとりあげて「30分しか経っていないのに状況が変わるはずがないだろう!」と怒鳴ったほどだった。


■5.海上保安庁始まって以来の船体への発砲

 12時48分、巡視船「いなさ」がようやく現場に到着した。深夜の出動命令から、すでに11時間が過ぎていた。

 午後1時12分、「いなさ」から工作船に向けて無線機、拡声器による停船命令が日本語、英語、中国語、韓国語で発せられた。同時に汽笛や旗流信号、さらには飛行機からも停戦命令が出された。

 工作船は中国の水域を目指して走り、その先には中国籍と思われる漁船群があった。工作船が日本の領海か、EEZ内にいる間に停戦命令を発していれば、中国のEEZ内に逃げ込んでも、日本側に追跡権が認められる。そのギリギリのタイミングだった。

 工作船は停船命令を無視するだけでなく、「いなさ」の進路を妨害するようにジグザグ走行をしながら逃げ続けた。逃走を諦める様子は微塵も感じられなかった。

 午後2時22分、「いなさ」が射撃警告を開始。15分後には、20ミリ機関砲で上空、および海面への威嚇射撃を行ったが、工作船は一向に動じる様子もない。

 やがて、堀井船長率いる「みずき」など、計3隻の巡視船が次々に現場に到着した。「みずき」が工作船の船影を捕らえたのは午後4時30分。本部からは「『いなさ』に代わって『みずき』が撃て!」と発砲命令が出た。「みずき」船内に一気に張り詰めた空気が広がった。

 午後4時58分、「みずき」は工作船の船体に向けて射撃を開始した。これは海上保安庁始まって以来、初めての船体への射撃だった。

「みずき」には、2年前の能登半島沖での不審船取り逃がしの反省から、高性能のRFS(Remoto Firing System)20ミリ機関砲が搭載されていた。目標物を自働追尾する性能を持っており、これによって揺れる船の上から撃っても、誤って船員を撃ってしまう、という危険が避けられるようになった。

 射手の「全弾命中!」という声が室内に響き渡った。そして「何発撃ちますか?」と聞く。堀井船長は「船が停まるまで撃て!」と命じた。


■6.「驚いたことに工作船の方では少しも慌ててないのです」

 日が陰って暗くなった海に、曳光弾が光の線となって、工作船に降り注ぐ。午後5時24分、工作船が出火した。甲板上でガソリンらしき可燃物に引火したようで、炎が上がるのが確認された。

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 火は10メートルくらいの高さまで上がりました。火柱が立つのが見えると、やはり反射的に「救助すべきなのか」と迷いました。それで一応「みずき」だけが放水銃の準備を始めました。[2,p186]
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 反射的に「救助すべきなのか」と思ったのは、日頃、海難救助にあたっている習性だろう。しかし、救助を求めるような相手ではなかった。

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 しかし、驚いたことに工作船の方では少しも慌ててないのです。むしろ落ち着いていて、火が船橋に燃え広がらないようにわざわざ風上に向かって後進し始めました。前進しながらの消化では操舵室に火が延焼する恐れがありますからね。それと同時にTシャツを着た船員が出てきて消火を始めたのですが、その手際が実によくて、あっという間に鎮火してしまったのです。

 彼らの出火への対応を見たときの印象は、「みなよく訓練された船員たちなんだなあ」というものでした。
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 プロの工作員だから、おそらくは北朝鮮の軍人の中でも特に選ばれた強者たちであろう。


■7.「甲板上でたばこをふかしたり」

 悠然と消火作業を終えた工作船は再び逃走を開始した。巡視船の方は、威嚇射撃を続けながら停船させようと接舷を試みた。「きりしま」が工作船に接したのだが、工作船の船員たちがナイフや棒を振り回して抵抗したため、仕方なく「きりしま」は離舷せざるをえなかった。

 離れていく「きりしま」をみながら、工作船の甲板にいた船員らが、一斉に「万歳」のポーズをした。相手は余裕たっぷりで、甲板上でたばこをふかしたり、「カーラ、カーラ(朝鮮語で「向こうに行け」の意味)」と言いながら追い払うような手振りを見せたりもした。正当防衛でもなければ攻撃できない巡視船を舐めきっていたのだろう。

 工作船はその後、接舷に手間取る巡視船を尻目に、急に逃走のスピードを上げた。巡視船の乗組員の脳裏には、一瞬、能登半島沖の再現になるのでは、といやな予感が走った。

 速度を上げて走る工作船から、しきりに海面に向かって何かが投げ捨てられた。工作船の正体を隠すための証拠隠滅だろう。そして、なぜか今度は急に停船した。すでに午後10時を回り、あたりは真っ暗である。海は大しけで雨も強く降っていた。


■8.工作船からの銃撃

 停止した工作船を挟むように、巡視船「あまみ」と「きりしま」が両側から近づいた。「あまみ」の船体がまさに工作船と接しようとした。

 工作船の船橋にいた一人の男が合図らしきものを送った次の瞬間、船橋後部にあった毛布のかたまりのようなものが突然、ふわりと払いのけられると、その中から数名の男たちが飛び出してきた。

 その男たちは、一斉に巡視船に向けて自動小銃の弾を浴びせかけてきた。夥しい数の銃弾が巡視船に撃ち込まれる中で、ロケット・ランチャーが発射される音も聞こえた。

 銃撃が始まった瞬間、堀井船長率いる「みずき」はちょうど弾の充填のために工作船からおよそ5キロ離れた所に退避していた。そこに報告が届いた。

「あまみ」と「きりしま」が被弾----。

 部下の言葉に堀井船長は、我が耳を疑った。

__________
 私は瞬間的に「そんなはずはない。もう一度よく確認しろ」と命じましたが、すぐに「本当です。間違いありません」との返事が返ってきました。[1,p189]
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 これはもう本当の戦闘だった。

(続く。文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(087) 北朝鮮工作船を逃がした理由
 国内法に縛られて手が出せない自衛隊を後目に北朝鮮工作船はゆうゆうと逃亡した。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog087.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 産経新聞、H22.11.17、「海上保安官、懲戒処分へ」

2. 富坂聰『平成海防論 国難は海からやってくる』★★★、H21
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4103045523/japanontheg01-22/


■「海防人(うみさきもり)の戦い(上)」に寄せられたおたより

■新太郎さんより

 工作船に関して横浜に有る工作船展示館をご覧になっていない方が有れば是非見てください。マスコミではわからない事が実感としてわかります。

 今回の尖閣諸島のビデオもこのような形ででも公開してほしい物です。


■編集長・伊勢雅臣より

 引き揚げられた工作船は、「海上保安資料館 横浜館」にて無料公開されています。工作船の船体や、収集された武器など、多くの写真を掲載したパンフレットも掲示されていますので、ご覧ください。
http://www.kaiho.mlit.go.jp/03kanku/kouhou/jcgm_yokohama/



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