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zoom RSS JOG(649) 中国市場で勝つ方法 〜 「空調のベンツ」で勝ったダイキン工業

<<   作成日時 : 2010/05/23 00:00   >>

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 腰を据えた人材育成を通じて、高品質の製品・サービスを提供するという日本企業本来の強みを生かす。


■1.空調分野の売上、世界一へ

 平成22(2010)年1月、ダイキン工業の井上礼之会長兼CEO(最高経営責任者)は、空調分野での売上高が平成22年度にも世界最大手の米キヤリアを追い越し、世界一になるという見通しを示した。

 同社の空調分野における平成21年度の売上高は約9200億円。世界一のキヤリア社と200〜300億円に肉薄し、井上会長は「早ければ22年度中、遅くとも2〜3年の間には逆転し世界一の空調メーカーになる」と話した。[1]

 ダイキンの躍進を支えているのが、中国市場での健闘だ。中国での売上は全社売上高の13%に過ぎないが、営業利益率は約20%に達し、全社営業利益の4割以上を中国市場で稼いでいる。

 中国ではダイキンのエアコンは「空調のベンツ」との異名をとり、金持ちの家では、これ見よがしに居間にダイキンのマークが見えるように室内機を配置することが多いと言われている。

 ダイキンの中国市場参入が始まったのは1996(平成8)年。グローバル戦略本部の初代中国部長に任命されたのが高橋基人(もとびと)氏だった。今回は氏の著書『中国人にエアコンを売れ!』[2]から、ダイキンがどのように中国市場で勝ったのかを見てみよう。


■2.中国市場での安売り合戦と消耗戦

 ダイキンは大正13(1924)年に「大阪金属工業所」として創業し、昭和38(1963)年に「大(ダイ)」と「金(キン)」から「ダイキン工業」と改称した。

 ビルなどの業務用エアコンでは国内トップシェアを誇っており、家庭用エアコンでも平成15(2003)年に松下電器産業(現・パナソニック)から首位を奪っている。

 しかし中国市場への参入は遅かった。ダイキンが参入を決意した時点では、世界トップのキヤリアを始め、欧米勢ではヨーク、トレイン、日系では松下、日立、三菱、三洋などが、すでに進出していた。

 当時の中国でのエアコンの市場規模は、北米、日本、欧州についで世界4位だったが、いずれ近い将来に、日本、欧州を抜いて、2位になると見られていた。

 しかし欧米や日本の企業は、中国市場で苦戦を強いられていた。中国企業は、儲かるとわかると異業種の企業さえも、どっと参入してきて、1台1万円以下というようなとんでもない値段で大量販売する。そんな企業が300社ほども、中国にはひしめいていた。

 そのため、中国のエアコン市場は安売り合戦となり、外資系企業は消耗戦を強いられていたのである。


■3.「空調のベンツ」を目指せ

 ダイキンは、この消耗戦に加わらないと決断した。売上高やシェアといった「量」よりも「質」を重視し、高付加価値の高額商品しか販売しないこととした。

 もう一つ、外資系メーカーが苦戦を強いられている原因は、販売代金の回収が難しいことだった。中国社会では「金貸すバカに、返すバカ」と言われるほど、借りた金をなかなか返さない。

 そこでダイキンは、代金の「前払い制」をとることにした。先にお金を払ってくれたお客に商品を渡すという仕組みであるから、取りはぐれがない。

 すなわち、前払いしてでも買いたいと思わせる強いブランド・イメージを作ろうとした。言わば「空調のベンツ」を目指すことにしたのである。

 商品としては、ダイキンが世界で最初に手がけた、一つの室外機で各部屋毎の室内機を動かす、という最先端製品を投入することにした。さらに室内機は天井に埋め込むカセット式である。

 それまでの中国では、20馬力の能力が必要な大部屋でも、それに対応した高性能エアコンがなく、5馬力のものを4台つけて、室外機が墓石のように4台も並ぶ、という方式が珍しくなかった。

 アメリカのメーカーは大型空調機を納入しているが、太いダクトで建物中に冷気や暖気を送るシステムで、効率も悪く、音もうるさい。


■4.未熟な市場に最先端の製品を投入

 最先端商品を投入しようとするダイキンを、競合メーカーはせせら笑った。「未熟な中国市場がそんな最先端製品をすぐに受け入れられるはずがない。ダイキンは中国市場が成熟するまで辛抱できる体力があるのか」と考えたのである。

 ダイキンは、この業務用エアコンの最先端商品で、まずは通信、学校、病院などの官公需市場を攻めた。これらの分野で予算を握る役人はコスト意識が低く、最先端のものが好きな「ええかっこしい」である。高くとも世界最先端のエアコンを導入することは彼らの自慢のタネになる。

「ええかっこしい」ばかりではない。通信では、交換機が熱を発生するので、空調が効かないと誤動作してしまう。高品質・高信頼性のエアコンが威力を発揮する。

 また学校や病院は部屋数が多く、部屋毎に稼働状況が異なる。ダイキンのエアコンなら、部屋毎に稼働を調整できるので効率的である。しかもアメリカ製よりもはるかに静かで効率的である。

 ダイキンのエアコンを入れて良かったと思うと、役人たちはそれを自慢する。それを聞いた別の役人は、自分の所にもダイキンを入れようという気になる。こうして「空調のベンツ」というブランド・イメージが確立されていった。通信、学校、病院の市場では、ダイキンはトップシェアを奪った。

 香港課長として1年半、中国とビジネスをしてきた高橋さんの読み通りの展開となった。


■5.「空調のベンツ」にふさわしい販売店網

「空調のベンツ」を、しかも前金制で売るには、それにふさわしい販売網を築かなければならない。多くの外資系メーカーは、各地域の卸売りや大手代理店を通じて商品をさばいていた。これでは中間マージンをとられるし、かつ販売サービスの質の確保も難しい。

 そこで高橋さんはダイキン独自の販売特約店の開拓を目指した。ダイキンの工場で作られた製品は、これらの特約店を通じて、直接エンドユーザーに届けられる。当然、代金を受け取ってから施工する前金制を徹底させた。

 販売特約店は規模によっていくつかのランクに分けられるが、一番規模の大きい「設備代理店」には、年間700万元(約1億円)以上の仕入れが可能な事、設計から営業・工事・サービスまで一貫してできる事、顧客を抱えていること、などの条件を求めた。

 販売特約店は数年後には約700店に増えたが、高橋さんはそれぞれの店が資格条件を持っているか、自分の目で確かめた。経営者の家族構成から従業員数、商いのやり方など、すべて高橋さんの頭の中に入っているという。

 さらに特約店のオーナーや従業員の教育に力を入れた。中国市場参入の2年目、1997(平成9)年には上海に研修センターを作り、以後、40日間の研集会を年30回以上開催している。

 ここで最新技術や納入事例を紹介し、ユーザーのニーズに応じた提案型営業ができるように教育していった。特約店から見れば、「ダイキンと組めば儲かるうえ、技術力も向上する」ようにした。

 販売特約店との契約は1年ごとの更新で、契約解除基準を明確に設定している。たとえばサービスの質が低い特約店など、毎年、全特約店の4分の1の当たる150店が入れ替わっている。やる気のない販売店では、販売の質が落ちるに決まっているという信念からである。

 他の空調機メーカーでは、ここまで手間のかかることをしないので、販売店の中には、メーカーに対して「高すぎて売れないから、値段を下げてくれ」と言いつつ、顧客には勝手に高い値段で売りつけて大幅なマージンを稼いだりすることがある。

 高橋さんは、ダイキンと同じ考え、同じ気持ちでやってくれる特約店をパートナーとして育てていったのである。


■6.「べたつき」と「しつけ」

 販売は特約店に任せきりではなく、ダイキン自身も顧客開拓から成約までを行い、施工以降をその地域の特約店に任せるルートもある。特約店からしてみれば、ダイキンが顧客まで見つけてくれるので、大いにやる気の出る仕掛けでもある。

 しかし、当初はダイキンで営業マンを募集しても、応募してくるのは営業経験のまったくないズブの素人ばかりであった。営業のイロハから教え込まねばならない。

 そこで、高橋さんは日本からエース級の営業マンを次々と出張扱いで派遣して貰い、彼らが中国人の営業マンに「べたつき」、現場で営業のノウハウを徹底的に教え込んだ。

「べたつき」とはダイキン特有の言い方で、営業マンを育てるには、一般論では絶対にだめだという考えから、現場の実際の仕事の中で、先輩が後輩にノウハウを教え込むやり方である。

 こうして育った現地人を順次、マネジャーにして、今度は彼らが後進に「べたつき」、指導・育成を行う。このやり方は知識の伝授だけでなく、顧客を大切にする価値観を伝えるのにも有効であろう。

 営業マンだけでなく、他の社員にも、高橋さんは「しつけ」を徹底した。朝の挨拶からお客さまへの対応の仕方まで、毎朝徹底して叩き込んでいった。

 おかげで他の会社の人から、「高橋さんのところの社員は、なんであんなに礼儀正しいんですか?」と聞かれるまでになった。

 こうした「しつけ」を重視した社員教育や、「べたつき」によるマン・ツー・マンの人材育成は多くの優れた日本企業の特徴であり、それはそのまま中国においても独自の威力を発揮するのである。


■7.「空調のベンツ」にふさわしい保守サービス

 顧客の心をしっかりと掴むには、質の良い保守サービスが欠かせない。納入した製品をしっかり点検すれば、顧客は安心して使え、その信頼が次の商売につながっていく。

 進出の2年目、1997(平成9)年には、上海で24時間対応のサービス体制を始めた。空調機メーカーとしては初めてのことである。

 こんな事例もあった。北京の投資銀行で冬に徹夜作業が行われていた。気温はマイナス10度以下まで下がった。

 この銀行ではダイキンと競合のM社の空調機が半分ずつ入っていた。ダイキンの空調機はマイナス15度まで対応できたが、M社の方はマイナス10度以下はオプション装備でしか対応していなかったので、動かなくなってしまった。

 ダイキンの空調機をつけたエリアでは快適に仕事ができるが、M社のエリアでは寒くて仕事にならない。M社に電話しても、明け方のことで閉店していたのだろう。

 困った銀行側は、ダイキンのサービス部門に電話してきて、次はダイキンの製品にするから来てくれ、と泣きついたたのである。

 中国は口コミ社会である。こうした事が口コミで広がっていけば、「空調のベンツ」というブランド・イメージがますます強固になっていく。

 2003(平成15)年には、華北、華東、華南の3地域で、業界初のサービス会社の認可を得た。他社製品のサービス・メンテナンスも行う会社である。競合他社のエアコンを使っているユーザーも、ダイキンのサービスの素晴らしさを知れば、次の更新時に同社の製品を希望するようになる、という算段である。

 ちなみに、このサービス会社の認可を北京当局から得るときには、「このようなことは初めてだ」と難色を示された。高橋さんは「法律はあとで作ったらいいではないか。あなた方の面子(めんつ)は絶対に潰さないから」と、担当の役人と何度も酒を酌み交わしながら、粘り強く説得した。

 中国は人治社会であるから、相手の信頼を得れば、「法律はあとで作ったら」という事も可能になってしまうのである。


■8.リスクへの目配りと、本来の強みの発揮

 高橋さんは、中国社会におけるリスクへの目配りも慎重に行った。もっとも怖いのは、650〜750万部の発行部数を誇る『北京青年報』や『北京晩報』など有力紙の「日本バッシング」コーナーに引きずり出される事である。彼らは何の裏もとらずに、バッシングを行う。

 それを避けるために、高橋さんは定期的に何十社の新聞記者を呼んで「記者懇談会」を開き、食事と車代を出した。こうした人脈を生かして、いい加減なバッシング記事を事前に防ぐ事に務めた。

 先に述べたように代金回収のリスクを前金制で防ぎ、また新聞でのバッシングを記者達との人脈を通じて予防する。こうしたリスクの予防は、中国市場で成功するために不可欠な条件だろう。

 こうしたリスクをしっかり抑えたうえで、腰を据えた人材育成を通じて、高い品質の製品・サービスを提供する戦略は、中国市場においても十二分に通用することを、ダイキンは実績を持って示した。

 中国市場においても、日本企業はやはり日本企業としての本来の強みを発揮して勝負すべきである。未熟な新興国市場でも、豊かな消費者が増えていけば、かならず日本の高品質の製品・サービスが求められるようになるからである。
(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(550) 日米中の組織文化〜 グローバル競争を勝ち抜くには
 グローバル競争を勝ち抜くには、自分の個性を強みとして発揮していく戦略性が必要。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h20/jog550.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 産経関西、H22.1.16、「ダイキン・井上会長 『空調22年度世界一』」
http://www.sankei-kansai.com/2010/01/16/20100116-019374.php

2. 高橋基人『中国人にエアコンを売れ! 』★★、草思社、H17
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4794213735/japanontheg01-22%2


■「中国市場で勝つ方法」に寄せられたおたより

■アニーさんより

 毎回一人うむうむと納得しながら読ませていただいています。

 今回の記事を読んでなんだかほっとしました。模倣の国、中国が日本を追い越す勢いで成長しているので、いささか不安な気持ちでいたのですが、やはりさすが日本人!あっぱれ!っという思いです。

 日本人の顧客を大事にするという根本的なビジネス精神がダイキン工業の高橋さんのような人材を作ったのでしょうね。とても頼もしく誇りに思えます。日本の製品はやはり安かろう悪かろうの陳腐なものではないんだぞ、日本製は高品質だから高額なんだと胸を張って言えます。低価格で競っている他の日本製品も是非見習ってほしいです。

 日本製の良さにもっと自信をもって、中国の高度成長の中を生き抜いてほしいですね。

 ただ、やはり敵は模倣の王者。日本の素晴らしい技術を盗まれないように注意も必要ではないでしょうか。

 日本に来た旅行者が、炊飯器を大量に買っていくニュースがありましたが、日本の製品の技術を持って帰っているようであまりいい気分ではありませんでした。1年後には同じ商品が中国で売られていないとも限りませんからね。

 まだまだ油断したくない国です。とはいえ、中国人が嫌いだというわけではありませんので、誤解しないでくださいね。共産国という中国が信用ならないだけですから・・・

■編集長・伊勢雅臣より

 いつまでも模倣品、模造品ばかり作っていては、一流国にはなれません。オリジナリティーが必要です。



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